建築の新たな可能性
建築を床から発想する

建物を構成するパーツはさまざまある。例えば、床材・フローリング。当然のことながら、それなくして建築はあり得ない。一方で、建物をたてる際に床材・フローリングのことを最優先で考えることがあるだろうか? ここでは、そんな常識を打ち破ろうとする専業メーカーikutaの宮田浩史 代表取締役社長に話を聞く。

足元から世の中を変える!

−−日本に床材・フローリング専業メーカーはどれくらいあるのでしょう?
宮田浩史 株式会社イクタ代表取締役社長(以下、M)当社を含めて3社です。

−−ikutaがリーディングカンパニーである?
M そうありたいと常々考えています。当社のモットーは“ないものをつくる”です。オリジナルでイノベーティブな商材を製造・発信して、足元から世の中を変えていければと。

−−そんなikutaの歴史について教えてください。
M 創業は江戸後期、初代・生田藤造が「戸屋藤造」という建具店をおこしました。つまり当社には150年以上の歴史があり、私が8代目です。床材・フローリング専業に転換したのは1958年のことです。

−−床材・フローリングは建築にとって、どんな存在であると考えますか?
M 建築において、床のない建物は存在しません。ただし日本ではショールームに完成された建物が並び、また分譲住宅率も高いため、消費者が“床から考える”機会は少ないです。日本には靴を脱いで、床に直接触れる独自の文化があります。それなのに、床にこだわりがないというのは専業メーカーとして、とても悲しいですね。だからマインドセットの変革を図りたいと考えています。

非ケミカル、あくまでナチュラルに

−−ikutaの、他社にない優位性とは?
M 市場では“シートフローリング”(樹脂材に木目などを印刷したシートを貼ったもの) が約7割を占める中、当社は逆に約7割が天然木。本物志向の商品で、独自のポジションを築いてきました。当初、この戦略は社内でも懐疑的で、「高級路線で本当に売れるのか?」という不安の声もありました。しかし商品発売後は、質の良さを求めるお客様から高い評価をいただけました。木の温もりや香りを大切にするユーザーから支持を得られたことは、大きな自信につながりました。

−−天然木との取り組みは他にも?
M はい。北海道の企業と連携し、本来ならチップになる広葉樹の間伐材を床材・フローリングとして活用するプロジェクトに取り組んでいます。また廃校になる小学校の桜や、思い出の詰まった自宅の樹木などを再生するプランも構想中です。

−−顧客(法人・個人)の見方も変わってきた?
M サステナブルやSDGsといった考えが一般的になったこともあり、業界内にあった“価格こそ全て”というムードは一転し、新たな取り組みにも注目いただけるようになりました。

業界の常識を次々に打ち破る!

−−例を挙げていただけますか?
M 2014年に私が開発したツヤなしフローリング「ラスティック」シリーズは、わずか2年で15億円という爆発的ヒットとなりました。それまでの床材・フローリングは光沢のあるものばかりでした。だから「ツヤなしを作ってみてはどうか?」と提案したのですが、塗料メーカーは「前例がない」「できない」の一点張りで……。でも、「まずはやってみよう!」と根気強く説得し、実現しました。テレビマン出身という、素人発想だからこそブレークスルーできたのかもしれません。

−−“発明”は他にも?
M 2015年には“エアー・ウォッシュ・フローリング”という、光触媒によって菌・ウイルス・VOC(シックハウスの原因物質)・臭いを除去する商品を発売しました。有害物質は床上30㎝に集まるといわれ、まさに床材・フローリングに機能を持たせた商品です。コロナ禍で多くの問い合わせをいただき、今では当社商品のほぼ全てに同機能を付与しています。今後も“健康器具としての床材・フローリング”を訴求していきたいですね。健康以外にも開発の切り口はさまざまで、各カテゴリーで高付加価値な商材を提案していければと思います。

目指すは業界におけるラグジュアリーブランド化


壁面アートの“花グラフィックWOOD”

−−2017年に発売した“ラグジュアリーコレクション”についても教えてください。
M トライ&エラーを繰り返し、販売までに5年を要しました。苦労した甲斐があって富裕層からの評価も高く、ラグジュアリーブランドからの問い合わせも多いです。2024年に出展したドバイの建材見本市「BIG5グローバル」でも大きな反響を得ました。ただ金箔を使っているため価格は時価となり、ざっとひと坪あたり100万円です。そのため、ストーリーをきちんと伝え、共感いただくことが重要だと考えています。

極みを足 裏に感じられる幸せ

−−ストーリーとは?
M 加賀百万石藩主・前田利家の庇護の下で成長し、今でも国内生産量の99%を占める金沢の縁付金箔と、ゴージャスな織物の代名詞である京都・西陣織の技術を活かした金銀箔を用いています。それぞれの地で伝統を紡ぐ工芸士たちの熟練の技を集めて形にしたのが“匠ジャパン”です。プロジェクトには、彼らの貴重な文化を絶やさないようにとの思いも込めました。ほかにプラチナ箔などもあり、業界に革新をもたらしたと自負しています。“匠ジャパン”は、セントレジスホテル大阪の鉄板焼レストラン「和城」などにも採用されています。

−−“花グラフィックWOOD”では、ついにフィールドを床から脱しました。
M フラワーアーティスト川崎景太さんとの協業によって生まれた壁面アートです。フローリングと同じ木板にレーザー彫刻を施し、金箔を貼り合わせたもので、こちらも多くの好評の声をいただいています。今後は、お客様の誕生花をデザインすることなども構想しています。

−−最後に、イノベーティブなikutaの考える未来について聞かせてください。
M “ikutaといえば床材、床材といえばikuta”になりたいですね。夢は業界内の「エルメス」や「シャネル」のような絶対的な存在になることです。

“匠ジャパン”ができるまで


  • 1 打ち紙の仕込み

  • 2 箔を挟み延ばす

  • 3 箔を抜き裁断

  • 4 板に糊を塗る

  • 5 箔を乗せ接着

“匠ジャパン”。用いる金箔は極薄で空気穴があり、貼っても天然木材が“呼吸”することをさまたげない。

Profile

PHOTO : NORIHITO SUZUKI

株式会社イクタ 代表取締役社長
宮田浩史
HIROSHI MIYATA

1977 年生まれ、愛知県出身。愛知学院大学を卒業後、中京テレビ放送に入社。11 年間、テレビ業界に携わる。2012 年に株式会社イクタに入社し、16 年代表取締役専務に就任。19 年から現職。ツヤなしフローリング「ラスティック」シリーズをはじめ、画期的な商材を多数開発している。

Information

ikuta青山ショールーム

TEL 03-6721-0191
https://ikuta.co.jp