美景の宿

眼下に広がる大海原に限らず、 室内を彩る装飾品の数々まで。 目に入る景観すべてに価値がある、 そんな極上の宿、三選。

世界に誇るべき日本藝術の至宝の数々 ホテル雅叙園東京

本年、創立90 周年を迎えるホテル雅叙園東京。日本の伝統芸術の粋が施されたその建物は既知のものであろうが、これまで館内に秘められていた、その至宝の数々はあまり脚光を浴びることなく、迂闊にも見過ごされていたかもしれない。この先、世界の注目を集めるであろうこのホテルの美術品の数々を、まずは日本人である我々が認め、もっと知っておくべきではないだろうか。

写真/杉能信介

(写真左)竹林の間 前室 門井掬水原図 螺鈿修復 全龍福 江戸時代の裕福で華やかな暮らしぶりを思わせる見事な美人画が螺鈿によって鮮やかに描かれ、宴会場に続く通路になる前室に何気なく飾られている。(写真右)和室宴会場入口 浮世絵師、尾竹竹坡原図、彫刻家、盛鳳嶺による「徳川将軍日光廟参拝の図」「徳川将軍家大奥四季年中行事遊楽図」他。江戸文化の艶やかな色彩感覚が三方から目に飛び込んでくる。

創業者細川力蔵の執念が生んだ日本美に彩られた夢の館

 ホテル雅叙園東京。1928年に料亭として創建された目黒雅叙園は本年創立90周年を迎える。創業者である細川力蔵はこの場所を「竜宮城」のような夢の空間にすることを望んでいた。昭和初期の芸術家達を招いて館内に施された作品群の数々は、700点以上にも及ぶ。黒漆に蝶貝を埋め込んだ煌びやかな螺鈿、色鮮やかな日本画。日本の神話や歴史物語を立体的に表現した浮彫り彫刻、窓枠や戸棚までに及ぶ繊細な建具の意匠の数々。そこに見られる美への追求は、もはや執念とも呼ぶべきものだった。当時の名匠、名工を多数集めて作られたそれらの作品群は、失えば二度と復元することの出来ない貴重な美術品である。そして目黒雅叙園は創業者の「より多くの人々にこの美の館を提供したい」という想いから、1938年には総合結婚式場に。その後、東京都の指定有形文化財である百段階段を除き近代的にリニューアルされ、すべての美術品は移築された。2017年には「ホテル雅叙園東京」と名称が改められ客室も一新。日本の芸術に世界の関心が集まる昨今、この「日本美の館」に世界中の注目が集まる日はそう遠くない。

日本料理「渡風亭」竹坡の間 螺鈿原図 尾竹竹坡、螺鈿師 光信師「老松に鶴」 落ち着いた日本庭園を臨む和室。壁一面の螺鈿、天井、入口の扉に至るまで見事な螺鈿細工が施されている。

絢爛豪華な美術品の数々に驚嘆 日本美の粋を味わって欲しい

 エントランスをくぐると、すぐに目に飛び込んでくる色彩豊かな日本画や木版画の数々、その先に広がる日本庭園や滝。これほど「日本美の世界」を徹底的に表現し尽くした宿泊施設は世界にただ一つである。しかし館内をゆっくり見渡してみると、まだ一般にあまり知られることのなかった、多くの素晴らしい美術品が存在することに気づくだろう。まず見逃してはいけない場所が、4階和室宴会場入口にある豪華絢爛な彫刻と螺鈿細工の数々。遮るものもなく、これほどの日本芸術の大作を間近に鑑賞することが出来る場所は他にはない。そこからさらに歩を進めれば宴会場の入り口に、色鮮やかな螺鈿で描かれた美人画が出迎えてくれる。また館内にある茅葺屋根の一軒屋、庭園に面した日本料理「渡風亭」の豪華な螺鈿細工、中国料理「旬遊紀」では壁に描かれた美人画、扉の形状から天井の細工に至るまで、旧館の意匠をそのまま継承しているのに驚かされる。これら館内に散りばめられた作品群を一つ一つじっくりと鑑賞することが出来たならば、ホテル雅叙園東京で過ごす休日は、きっと味わい深い貴重な一日になることだろう

(写真上・下右)中国料理「旬遊紀」玉城の間 壁面画 天井彫刻原図 益田玉城「美人花笠踊りの図」扉や建具なども移設された当時のもの。ドアノブが低く和室からの移設を示す。桜舞う中で踊る女性たちの姿が美しい。(写真下左)百段階段 東京都の有形文化財に指定された百段階段。途中に7 つの部屋があり、それぞれ趣向をこらした装飾が施されている。

螺鈿エレベーター(百段階段) 施設内で唯一残る木造建築部分の「百段階段」へ向かうエレベーター内には豪壮な獅子を描いた螺鈿が四方に描かれている。原図 橋本静水 螺鈿 全龍福

竹林の間 前室 原図 門井掬水 螺鈿修復 全龍福 前ページにある美人画の前後には上流階級の女性達の豊かな生活が、季節の花とともに色彩豊かに螺鈿で描かれている。

和のもてなしの空間が広がる全客室がスイートルーム

 2017年、目黒雅叙園は「ホテル雅叙園東京」と名称を改め、装いもあらたに、客室もホスピタリティ溢れるモダンな姿にリフレッシュしている。全室が80㎡以上の広さを誇るスイートルーム仕様になっている。宿泊客専用のエグゼクティブラウンジ「桜花」のある同フロアには、他にもパーティーやカンファレンスなどにも利用できる「紫翠」などの個室や、240㎡の広さのスイートルーム「紅葉」、寛ぎのスペースとなるライブラリーラウンジ「椿」などがある。世界中からエグゼクティブを招き入れるために、90年に及ぶ和の精神を継承した一流のもてなしがそこにはある。

SUITE ROOM 昨年4 月にリブランドされた「ホテル雅叙園東京」。新客室は全室が80㎡以上。不要なものをそぎ落とした「シンプルな中にある自然な姿」を求め清らかな美しさのある「和敬清心」の空間を形にしている。客室は自然素材を活かした落ち着いた色彩で統一され、広々とした窓からは、桜の季節には目黒川の見事な桜並木が見渡せる。

エグゼクティブラウンジ「桜花」 目黒川を臨む眺望の「桜花」は宿泊客専用のエグゼクティブラウンジ、朝食からカクテルタイムまでそれぞれの時間帯で寛ぎの時間を過ごすことが出来る。

桜景観 ホテル雅叙園東京の周辺には日本有数の桜の名所として知られる目黒川が流れている。その季節には宿泊客には周辺を桜を愛でながら人力車で巡るツアーなども用意される。

Information

東京都目黒区下目黒1-8-1

TEL 03-3491-4111(代表)

http://www.hotelgajoen-tokyo.com/

旅の思い出は、最高のコンディション ATAMIせかいえ

相模湾を一望する客室テラス。湯船からは海と露天風呂の一体感が楽しめる。

由緒ある保養地に誕生したニュースタンダード

 東京から新幹線で40分ほどの別天地へ。古くから東京の奥座敷として多くの財界人や政治家、文豪に愛されてきた熱海は、温泉に恵まれた太平洋岸の風光明媚な保養地。

 この熱海のイメージを大きく変える、異色の滞在型リゾートがある。日本を代表する、世界的コンサルタント、大前研一氏とのコラボレーションによって生まれた「ATAMI せかいえ」だ。

 健康意識が高くアクティブなビジネスエグゼクティブに好評なのが、パーソナルコンディショニングサロン「OCEAN BREEZE」。一人ひとりの心身の状態に合わせたリラクゼーション法や運動療法のアドバイスから最良の健康状態へと導いてくれるものを始め、地元食材を使って日本料理の職人が手がけるストレスの少ないファスティングや、健康は美しい姿勢からという考えから編み出されたウォーキングメソッド、伊豆山をめぐるノルディックウォーキング、朝ヨガなどがある。滞在中これらのプログラムを組み合わせて過ごすこともでき、自らの体の声に集中して耳を傾けられる。

 一方、ただただ安逸をむさぼる過ごし方でもいい。2017年11月に隣接して開業した、新棟「ATAMIせかいえ月の道」全13室のうち最上階のペントハウスでは完全バトラー制を取り入れ、また専用のカウンターキッチンでは、和食、鉄板、フレンチなど好みに合わせた料理を専属シェフが作ってくれるというから、至れり尽くせりだ。

 しかも、熱海では数少ない源泉掛け流しの露天風呂が全客室のテラスに設けられている。湯船からひねもすのたりの大海原を眺める。ほかは何もしないという贅沢。

 高台から果てしなく広がる水平線を眺める絶好のロケーションで潮風を感じながら過ごすうちに、日々の多忙な生活で心身に染み付いたコリや癖がほぐされ、最良のコンディションが整うのを実感するはず。

 アクティブでも悠々自適でもどちらの志向を選んでも心身ともにリフレッシュして、軽やかな気持ちで宿を後にすることだろう。

昇る朝日を眺めながらのバスタイムは、開放感に満たされた至福のひと時。

質の良い睡眠のために計算しつくされたベッドルーム。シモンズ社のベッドで快適な目覚め。

(写真上)部屋のどこからでも絶景の眺望が得られるようにオープンな造りの部屋。 (写真中) 食事はお部屋以外に、炭火焼きと日本料理が融合した「肉料理 ひとしお」、旬の地元食材を月替りの献立で提供する「お食事処つくし」でも。(写真下)「ローカルハラール認証」を取得した食材が使用され、ファスティング、糖質制限食もリクエスト可能。

Information

ATAMIせかいえ

静岡県熱海市伊豆山269-1

TEL 0557-86-2000

https://www.atamisekaie.jp/

新浦安エリア唯一のベイビューリゾート 東京ベイ東急ホテル

紺碧の海と無限に広がる空が優雅なひとときを約束

 都心から程近い新浦安に5月1日、全室ベイビューのリゾートホテルがグランドオープンする。館内は「海」「波」「風」「空」と心地よい自然のエレメントをテーマに設計され、眼前に広がる東京湾の景色と相まって贅沢な美景を演出。ゲストルームは、スーペリアタイプ、デラックスタイプ、二段ベッドのある客室までタイプとデザインが豊富で、特に3つの「コンセプトルーム」は、それぞれファンタジックな色合いやユニークなコンセプトが子供の心を魅了してやまない。最もハイグレードな最高層18階の角部屋スイートは、「ベイフロントスイート」と「パークビュースイート」の2室。ともに最大定員2名と定めた81平米の広々とした部屋は、まさに上質な休暇を求める大人のための非日常空間といえる。部屋に足を踏み入れた瞬間、2面窓から目に飛び込んでくるのは、どこまでも続く空。目覚めから気持ちのいい朝焼けと水面の煌めき、そして日没前からはノスタルジックな夕焼けと湾岸の夜景を独占できる。ただソファーに佇むだけで都会の喧騒を忘れさせてくれる、そんな優しい魔法にかけられてみるのも悪くない。

18 階の「パークビュースイート」は、夜はバーのようなうっとり空間に様変わりするアーバンスタイル。ゆっくりとお酒に酔いしれるのも粋な過ごし方。

 また、海辺に面するテラス付きの客室では、毎年7月末の土曜日に開催される浦安市花火大会を大パノラマで楽しめるという贅沢も。夜空をキャンバスに見立てて鑑賞する迫力満点の花火は、いわばここにしかない夏季限定のアート作品。人混みとは無縁の特等席で、大切な人と2人でカクテルを飲みながら眺めるのもよし、夏休みの思い出として子供へプレゼントするのもよし。もちろん、海上から上がる花火を一人でしっとり眺めるのも一興だ。

 そんな、とっておきの〝贅〞を尽くしてくれる同ホテルで、もう一つ特筆すべきスポットが、3階の屋上デッキテラス「海風テラス」。海風を感じながらBBQやナイトバーを堪能できる大人のためのエリアで、サマーシーズンのみビアガーデンが開かれる。地平線が見事なグラデーションに染まる神秘的なマジックアワーには、解放感とともに、おおらかな心と温かな感動で満たされるはず。

(写真上)美しい夕日をモチーフにした18 階デラックスフロアの「AKANE」。落ち着きのあるモダン空間は、安らかなアップライトで優雅な印象。(写真中)たくさんの魚たちが出会う華やかな世界をモチーフにした2Fロビーフロア。(写真下) 11 階は子供やファミリーが楽しめる「コンセプトルーム」フロア。お姫様の部屋をイメージした「プリンセス」や、海底トンネルを感じさせる「サブマリン」、おもちゃ箱のような遊び空間「ワンダーランド」が利用できる。

東京ディズニーリゾートへの無料シャトルバスも往復運行

海風を感じながら解放感に浸れるテラス付きの客室から。

Information

東京ベイ東急ホテル

千葉県浦安市日の出7-2-3

TEL 047-314-8070(宿泊予約専用)

https://www.tokyobay-tokyuhotel.com/