美景の宿

日本人の心に受け継がれてきた豊かな自然と日本文化一度は訪れておきたい世界に誇れる日本の宿、六選。

 

“湯守”の伝統を受け継ぐ草津の老舗宿  奈良屋

源頼朝が発見したと伝わる「白幡源泉」を湛える大浴場。湯守が整えたやわらかなお湯を堪能したい。

伝統とモダンが織りなす極上のおもてなし

日本三大温泉のひとつ、草津温泉。そのシンボルである湯畑の程近 くに「奈良屋」は佇む。創業は明治10年。老舗ならではの風格と趣を残しつつ、現代のニーズに応える快 適さを備えた湯宿だ。

多くの観光客で賑わう温泉街の中心地にありながら、宿に一歩足を踏み入れると、そこは別世界。喧騒を感じさせない落ち着いた和の風 情が漂う。

宿の自慢は、やはりお湯。草津温泉の数ある源泉の中でも最古と言われる「白旗源泉」から館内に引かれており、湯温は常に入浴に最適な41〜42°Cに保たれているという。このお湯の管理をしているのが、 湯守と呼ばれる職人だ。

湯守の歴史は古く、江戸時代に土地の領主から温泉(源泉)の管理人としての地位を与えられたことが始まりとされる。今では希少な存在で、湯守のいる宿は全国でもわずかな数しか残っていない。

「奈良屋」の湯守は創業以来引き継がれ、現在は六代目。気温などで変化する湯温を夏は41°C、冬は42°Cに保ち、草津温泉特有の刺激を和らげ、やわらかな湯になるよう丁寧に揉む。そのほとんどを手による感覚で行うというから、まさに職人技だ。「奈良屋」の湯船には、そんな湯守のゲストへの思いやりとお湯へのこだわりが溢れている。

古き良き日本家屋の趣を残す建物は、大きな梁や昔ながらの帳場、畳敷きの廊下など、どこか懐かしさを感じさせる。館内にはカフェバーもあり、伝統的な和の設えの中にきれいに溶け込んでいる。

客室は、和室から洋室まで多彩。「泉游亭」と呼ばれる特別室も室用意されている。日本古来の花の名が付けられたこの特別室は、和モダンのデザイナーズルームで、木組みの梁を活かした室内は機能的でありながらしっとりとした風情があり、ワンランク上の寛ぎを演出する。

脈々と受け継がれてきた伝統と、現代のおもてなしが調和する草津の老舗宿、「奈良屋」。日常の慌ただしさを忘れ、極上の旅時間を心ゆくまで楽しみたい。

モダンなスタイルと日本の伝統美が調和した泉游亭の客室。

右上から時計周りに/さくらの花の装飾をところどころに配した、伝統美を感じる客室。/ソファのあるリビングルームを備えた落ち着きのある客室。/館内のカフェ「喫茶去」。18時以降は宿泊者専用のバーになる。/露天風呂「花の湯」。お座敷付きの貸 切露天風呂なども用意されている。

草津温泉の中心にある湯畑から徒歩1分。創業以来変わらぬ場所に今も佇む。

 

Information

奈良屋

群馬県吾妻郡草津町草津 396

TEL 0279-88-2311

https://www.kusatsu-naraya.co.jp

 

絶景の温泉と新鮮な魚介を堪能 伊豆・稲取温泉 食べるお宿 浜の湯

270 度の大パノラマが広がる「望洋大浴場」。水平線から上る朝日や満天の星空を眺めながら贅沢なひとときを楽しめる。

16の湯船を有する伊豆・稲取の温泉宿

東京から特急列車で約2時間30分。風光明媚な伊豆東海岸の岬の突端に「浜の湯」は佇む。相模湾を望む絶好のロケーションと、伊豆の豊かな海の幸に恵まれた温泉宿だ。

宿の自慢は、屋上フロアを全部利用した温泉施設「天楼の泉 スカイフォンテーヌ」。趣向を凝らした16の湯船があり、中でも一番大きな「望洋大浴場」エリアからの眺めは壮観だ。目の前に270度の大パノラマが広がり、肌触りのやわらかな稲取のお湯で満たされた湯船につかると、まるで大海原に浮かんでいるかのよう。朝昼夜と表情を変える 水平線を眺めながら、日常の慌しさを忘れ、ぼーっと絶景とお湯に浸ることができる。露天風呂や寝湯、ミス トサウナ、テラスデッキなどを備えた「スイートプライベートスパ(有料)」 をはじめ、ゆったりと気兼ねなく寛 げる貸切風呂も充実しており、ファミリーやカップルにおすすめだ。

「食べるお宿」をコンセプトに掲げるだけあって、料理も絶品。稲取漁港の入札権を有しているので、夕食・朝食共に新鮮で美味しい魚介がずらりと並ぶ。質はもちろん、朝から舟盛りが出るなどボリュームも満点だ。宿泊施設の予約サイトが実施している口コミランキングにおいて、静岡県の宿・料理部門で1位に選ばれたのもうなずける。数ある料 理の中で、おすすめは 何と言っても「金目鯛姿煮」。ふっくらと した身に甘辛いタレが絡み、どんど んご飯がすすむ。最高の食材と料理人の技が冴えるここでしか食せない贅沢な逸品だ。

客室のバリエーションも豊富で、露天風呂付きのスイートなど個性豊かなタイプが用意されている。最上級のスイート「海音」は、135m²の広々としたスタイリッシュな空間と、大きく切られた窓からのオーシャ ンビューが魅力。大人気の南仏プロバンスの自然派コスメ「ロクシタン」をアメニティとして採用するなど、きめ細かな心配りもうれしい。

美しい眺望と天然温泉、そして豊かな食。伊豆・稲取の恵みを五感で味わう、極上の休日を過ごしてみてはいかがだろうか。

3年前にリニューアルされたロビーラウンジ。贅沢な寛ぎの時間がここから始まる。

宿で一番人気のメニュー「金目鯛姿煮」。コクのあるまろやかな煮汁が絶妙。

最上級スイート「海音」。伊豆の海を五感で感じながら身も心もリラックスできる。

岬の突端に佇む宿。目の前に大海原が広がり、遠くに伊豆七島を望む。

 

Information

伊豆・稲取温泉 食べるお宿浜の湯

静岡県賀茂郡東伊豆町稲取1017

TEL 0557-95-2151

https://www.izu-hamanoyu.co.jp/

 

天空に浮かぶ絶景リゾート 天草 天空の船

まさに天空に浮かぶリゾート。最大級のパノラマビューが楽しめる。

天草の海景を一人占め

三角駅より高速船で約15分。雲仙天草国立公園の中にあり、天草五橋を見渡せる高台に佇む絶景リゾート、「天草 天空の船」。その外観はまるで天空に浮かぶ船のようだ。5000坪の敷地内には、3棟の離れのヴィラと、全室の白く美しい本館が構える。すべての客室に露天風呂が設置されており、時間を気にせずのんびりと楽しめるのがうれしい。海にせり出すような豪華な造りの露天風呂からは、多島海・松島が望める。

客室は窓が大きく、開放感もたっ ぷり。離れのヴィラは、視界を遮るものがなく、360度の絶景を一人占めすることができる。その眺めは、アイランドビューとパノラ マビューわかれていて、さらにアイランドビューはサンセットサイドとサンライズサイドが選べようになっている。どちらかを選ぶのも良いが、連泊して両方楽しむのも一つの手だ。

館内のレストラン「Festa delmare」では、九州・天草の指折りの食材を使った本格イタリアンを堪能できる。有明海の海の幸をはじめ、幻の地鶏「天草大王」、天草黒豚「梅肉ポーク」などのブランド肉、熊本県産の有機野菜などをたっぷりと使ったヘルシーな料理が自慢だ。テラスからの絶景を眺めながらのディナーは、思わずワインもすすむ。毎年、伊勢海老漁が解禁となる季節には、別料金でカルパッチョなどが愉しめる。

食後は幻想的なプールサイドで、ワインやカクテルを傾けるのもお すすめだ。心地よい風に吹かれながら贅沢な時間を過ごしてみてほしい 。ブールサイドのテラスにはエステサロンが設けられており、バリ式のトリートメントを 受 けることもできる。

海に突き出すように設計された外観からか、まるで豪華客船に乗っ て旅をしているような錯覚に陥る。ホテルの至るところから天草の海景が飛び込んでくるからだ。ぜひ大切な人と一緒に、ここ天草でしか体験できない素晴らしい眺望と、至福の料理の数々を堪能してみてはいかがだろうか。

海に突き出すように設計された外観はまるで天空に浮かぶ船のようである。

テラスに設けられた天然温泉の露天風呂。海と島々に沈みゆく夕日は絶景だ。

熊本・天草の伊勢海老、鮑、ウニなどの豪華な食材を使った料理に舌鼓。メニューは、天草のイタリアンを楽しむコースの他、特別な記念日のためのアニバーサリープラン、至福のひと時のためのスペシャルコースなどが用意されている。/パノラマビューヴィラのリビングの開放的な大きな窓からは、海景を存分に楽しめる。何もぜずただ海を眺めているだけでも飽きない。

 

Information

天草 天空の船

熊本県上天草市松島町合津5984-2

TEL 0969-25-2000

www.tenku-f.jp

 

雄大な北海道の自然と古の文化に出会う旅へ しこつ湖 鶴雅別荘 碧の座

ロビー空間の8mの積層壁は、縄文文化からアイヌ文化、そして現代へとつながる地層の時の流れを象徴している。館内は、随所に縄文のデザインが施されている。

 

縄文時代から受け継がれる、大地の物語

北海道の玄関口、千歳空港から車を走らせること約40分。日本屈指の透明度を誇る支笏湖の畔に、「碧の座(あおのざ)」は佇む。宿の名は、支笏湖の色彩を表す「碧」と、人が集う空間を意味する「座」からとられている。支笏湖は、季節や光の屈折などの自然条件によってその色調が様々に変化するという。単なる青で はなく、緑、白、そして支笏湖ブルーと呼ばれる碧色へと移ろう。宿名に冠した「碧」には、古の時代からこの地に多くの恵みをもたらしてきた湖への敬愛が込められているのだ。

宿から少し足を延ばせば、日本最大の縄文化遺跡〝キウス周堤墓群〞がある。キウスはこの地に3千余年にもわたり安寧な暮らしがあったことを示している。「碧の座」は、こうした縄文時代から受け継がれてきたこの地の物語を、時を超えて現代に、そしてまた未来へとつないで いくことがテーマとなっている。

ロビー空間の8mの積層壁は、縄文文化からアイヌ文化、そして現代へとつながる地層を象徴して作られたもの。そして、館内の随所に施された独特のデザインには、祖先への敬愛と安寧な暮らしへの願いが込められている。その祈りの文様は、ゲストを悠久の時へと誘う。ホテルには、藍染め体験やアイヌ衣装の着付けなど様々なアクティビ ティが用意されている。藍染めは予約すれば気軽に体験でき、自分の作品をチェックアウトまでに受け取ることができる。アイヌの衣装は試着をすることはもちろん、着たまま外に出て湖で記念撮影なども可能だ。「碧の座」でしかできないこの体験は、ゲストにとって大切な旅の思い出となることだろう。

食事は、北海道の地産地消の旬の食材を使った懐石料理が供される。テーマは、〝素にして贅〞。和食のルールに縛られることなく、素材本来の味を存分に引き出す調理技法で美味しく食してほしいという宿の想いが込められている。

北海道の雄大な自然に包まれ、古からの文化を今に伝える北のリゾート。この地に刻まれた悠久の歴史に想いを馳せながらのんびりとした時間を過ごしてみてはいかがだろうか。

270m²の広さを持つメゾネットタイプのエグゼクティブスイートヴィラ「碧玉」。露天風呂とジェットバスが設置されており、湖を眺めながらのバスタイムで至福のひとときが楽しめる。

左/ロビーラウンジ青陽。
右上/オープ ンエアーの水庭テラス。静かに揺れる炎を見ながらお酒を楽しむこともできる。
右中/縄文をイメージして作られた美しい皿と、金目鯛を使ったお料理。
右下/日本の茶道からインスピレーションを得た、フランスのスパブランド「テマエ」の施術が受けられる。

 

Information

しこつ湖 鶴雅別荘 碧の座

北海道千歳市支笏湖温泉

TEL0123-25-6006

https://www.aonoza.com

 

聖徳太子ゆかりの斑鳩の里で、心のデトックス 門前宿「和空法隆寺」

 

歴史や伝統文化に囲まれ、和みの古都に籠る贅沢

聖徳太子が飛鳥から移り住み、斑鳩宮を造営したという斑鳩の里。世界文化遺産、法隆寺などの仏教建造物をはじめ多くの貴重な文化的遺産や国宝があるばかりか、斑鳩は豊かな自然にも囲まれ、のどかな空気に満ちている、夜になれば穏やかな静寂が古都を包み込む。

法隆寺参道に今年9月に開業した「和空法隆寺」のコンセプトは現代の門前宿。門前宿とは、寺社への参拝前に旅の疲れを癒し心を静めるために立ち寄る宿だったのだそう。門前宿「和空法隆寺」もゲストが日常をリセットし心身を整えられるように配慮されている。室内は和のくつろぎと洋風の快適さを兼ね備えた和モダンな設えを採用。畳敷きの客室にはローベッドを配し、どの世代のゲストも快適に過ごせる。ナチュラルな木のインテリアや和紙を使った優しい灯り、い草の香り。深呼吸をすると自然に肩の力が抜けていく。

歴史や伝統文化を様々な形で愉しめるのもこの宿の特徴だ。例えば、仏教伝来とともに聖徳太子の時代に伝わったという入浴文化は、もともとは寺院が人々に入浴施設を開放した「寺湯」からはじまったそう。この宿では、その寺湯をイメージした香湯や薬湯なども楽しめる4つの浴堂(浴室)を備えている。また、心を整える和文化体験として、茶道・華道・書道・香道のプログラムを用意している。華道では寺に伝わる簡素で実用的な生け花が学べたり、香道では香水の意味や歴史を学び自らの香りを調合したりと、単なるお稽古的なものではなく大人が愉しめる内容だ。

門前宿「和空法隆寺」は窓の外の美景を愛でる宿ではない。いわば自分の内面にある美しい景色を発見できる宿というべきか。1300年以上の年月を悠然と建ち続ける法隆寺のお膝元に身を置いて斑鳩のゆったりとした空気をすい、伝統文化の懐の深さを五感で感じるリセットの時間。そんな豊かな時間を過ごすうちに自然と不要な思考うや感情はデトックスされ、宿を後にする頃にはすっきりした輪郭の自分になっていることに気づくはずだ。大人の「お籠りステイ」にぴったりな宿といえるだろう。

書道のプログラムでは、墨の名産地、奈良県ならではの墨づくり体験が人気となっている。

フロントをはじめ館内の至る所に、和文化体験の宿を演出する器やオブジェが設えられている。

4つある浴堂は、日本の風呂文化のルーツ「寺湯」の流れをくむ。

昼は奈良や法隆寺関連の書籍を集めたラウンジとして、夜は地酒を味わいながら歴史や文化、仏像トークが楽しめるバーになる。

全60室の客室は華美な装飾を排した和の癒し空間。食事には地元食材を活かした神田川俊郎氏監修の懐石料理などを用意。

 

Information

門前宿「和空法隆寺」

奈良県生駒郡斑鳩町法隆寺1丁目5-32

TEL0745-70-1155

https://hpdsp.jp/waqoo-horyuji/

 

贅を尽くした、瀬戸内海を望む美食の宿 ホテル リッジ

テラスから望む、渦潮で有名な鳴門海峡をまたぐ美しい大鳴門橋。

 

大自然に触れるヒーリングステイ

徳島阿波おどり空港から車で30分ほど。穏やかな瀬藤内海と深い緑に抱かれ、ひっそりと佇むラグジュアリーホテルがある。その名は「ホテル リッジ」。2006年の開業以来、大々的な宣伝をしてこなかったため認知度は低いが、リピーターは後を絶たず、まさしく知る人ぞ知る隠れ家なのだ。

約7万坪の広大な敷地にわずか10室、平屋造りの離れ形式の客室は上質な調度品や徳島の特産品を用いた小物などがあしらわれ、エレガントモダンな装い。そしてなにより、窓の外に広がる景色と一体化し、ゆるやかな時間が流れる空気感が漂い、たちまち非日常の世界へと誘われる。とりわけテラスのガーデンソファに身を委ねれば、聞こえてくるのは潮風、木々の葉音、鳥のさえずり……自然の息吹は何ものにも代えがたい贅沢の極みで、心身が潤いに満ちていく。凛とした姿が美しい大鳴門橋を日がな一日眺めたり、源泉掛け流しの温泉に浸かったり、ただぼんやり、のんびりと過ごす。そんな滞在スタイルがおすすめだ。

情緒あふれる食空間に魅了

リピーター率の高い「ホテル リッジ」だが、特に顧客を惹きつける要素のひとつが食事。夕食は、枯山水式の庭園を擁する「万里荘」で瀬戸内の自然の恵みをはじめ吟味された素材の持ち味を際立たせた懐石料理が供される。香りから盛り付けに至るまで、巧みな技と工夫を施し目と舌を喜ばせる料理長、そしてきめ細かく心温まるスタッフのタッグが最高のおもてなしを演出し、忘れられない一夜となるはずだ。また有形文化財に指定されている築100年もの時を重ねた木造家屋での朝食も印象深い。伝統建築美から醸し出される情趣、ここでしか味わえない比類なき体験に感動もひとしお。

瀬戸内の海のように、たおやかな宿。予約が取れなくなるから人に教えたくない。一度訪れたら、そんな常連客と同じ気持ちになるだろう。自分だけの特別な居場所、至福の時間を、ごゆるりとどうぞ。

優美なデザインでまとめられた心地いい客室。

左上/数寄屋造りの万里荘。風情ある回廊がこれから始まる夕食の期待感を募らせる。
左下/瀬戸内の極上食材がふんだんに盛り込まれた懐石料理の一例。
右/周囲の自然とハーモニーを奏でる美空間。まるで一枚の絵画のよう。

左/ご飯が進む多彩な品々が並ぶ朝食。希少な徳島阿波番茶を用いた茶粥(白米と選択可)はぜひ一度お試しを。
右/朝食がいただけるダイニングルームは、三井翠松園(旧三井高達別荘)別館。渋谷から箱根、そして 2006 年にここ鳴門に移築。

地下1,500mから汲み上げた源泉掛け流し温泉。鉄分を多く含む柔らかな泉質。

 

Information

ホテル リッジ

徳島県鳴門市瀬戸町 大島田字中山 1-1

TEL 088-688-1212

https://hotel-ridge.co.jp