Asian Gastronomy
アジア美食紀行
The Art of Culinary Elegance
写真・文:大橋マサヒロ
取材協力:タイ国政府観光庁、マカオ政府観光局、マカオ航空

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(1)2020年の開業以来、早くもバンコクを代表する名店となった「NUSARA(ヌサラ)」では、素晴らしい景観とともに格別な美食体験を楽しめる。(2)マカオの「W マカオ・スタジオ・シティ」には、ハリウッド映画の華やかさと洗練されたスタイリッシュな雰囲気を併せ持つホテルやレストランが集う。米国の禁酒法時代をイメージした隠れ家的なバーでは、独創的なカクテルが提供されている。
伝統と革新が織りなすアジア美食の旅。悠久の歴史に育まれた食文化と現代の感性が絶妙に融合するアジア各地のガストロノミー。豊穣なる大地が育む食材と繊細な美意識に導かれる若きシェフたちの饗宴は、いま世界中の美食家たちの羨望を集めている。2025年「アジアのベストレストラン50」では、東京と並び最多の9軒がランクインしたバンコク、そして東洋と西洋の食文化が優雅に交差する美食都市マカオへ。進化を続けるグローバル・ガストロノミーの真髄を巡る、珠玉の旅がはじまる。ようこそ、アジア美食紀行の世界へ。
タイの食文化を華麗に演出
バンコク市内の閑静な住宅街シーロム地区にひっそりと佇む「Samrub Samrub Thai (サムラップ サムラップタイ)」。バンコクの名店「Nahm(ナーム)」で研鑽を積んだシェフ、プリン・ポルスック氏と妻のミント氏が手がける、タイ料理の真髄を味わう隠れ家レストランだ。
店内に足を踏み入れると、黒を基調とした洗練された空間に、わずか12席のカウンター席がシェフズテーブルのように設えられ、ゲストを非日常の世界へと誘う。2ヶ月ごとに変わるテイスティングメニューは、希少な食材とタイ各地の郷土料理のレシピをもとに構成され、タイの食文化を巡る美食の旅が始まる。オープンキッチンを囲むカウンター席では、料理の背景やストーリーをシェフから説明を受け、対話とともに料理の背景を楽しめるのも魅力のひとつ。空間設計には、サービスデザインを学んだ妻のミント氏の哲学が息づき、忘れ去られた食文化の継承というコンセプトが貫かれている。静謐で洗練された空間での体験は、心を満たす極上の贅沢。家族や友人らと楽しむ味覚の旅は、至福の時を提供してくれる。
Information
Samrub Samrub Thai(サムラップ サムラップ タイ)
39/11 Soi Yommarat, Si Lom, Bang Rak, Bangkok 10500
TEL +66-99651-7292
https://samrubsamrubthai.com/
継承と革新の饗宴
––進化するタイ・ガストロノミー
バンコク旧市街、ワット・ポーや王宮の静けさを背に、ひっそりと佇む一軒のレストランがある。その名は「NUSARA(ヌサラー)」。店を率いるのは、アジア美食界の旗手として世界から注目を集めるシェフのティティット氏。バンコクのモダン・タイ料理を代表する名店「Le Du(ル ドゥ)」で名声を確立した彼が、祖母から受け継いだ思い出とレシピに、現代の美意識を織り込み、唯一無二の料理として昇華させている。
ディナーの幕開けは、キッチンで食材の説明を受けながら味わう前菜から。その後、最上階のテラスへと誘われ、寺院の荘厳な眺めを前に、シャンパンを片手にアペリティーボを愉しみ、いよいよ食事の始まりだ。繊細に火入れされた川エビに、柑橘の爽やかさとスモーキーなパクチーの余韻が交差するひと皿からは、五感が研ぎ澄まされる感動に包まれる。フランスやタイ産の厳選されたワインと楽しむペアリングもまた、ひとつの旅。ソムリエとの対話を楽しみながらグラスを傾ける時間すら、このレストランが提供する美食体験の一部に他ならない。
タイ王朝時代の面影を湛えた優美なインテリアと、洗練された現代アートが織りなす華やかな空間。そこに添えられるのは、タイ美食文化の粋を極めた料理。──空間と味覚が奏でるこの至高のハーモニーが、訪れる人々を魅了する。
Information
NUSARA(ヌサラー)
336 Maha Rat Rd, Phra Borom Maha Ratchawang, Khet Phra Nakhon, Bangkok 10200
TEL +66-97293-5549
https://www.nusarabkk.com/
Macao
Chef Tam’s Seasons
シェフ・タムズ・シーズンズ

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(1)高い天井から吊るされたゴージャスなシャンデリアと鮮やかな生花が店内を彩る。(2)魚皮のゼラチン質と白身の上品な旨みが織りなす、シェフ渾身のシグネチャーディッシュ。(3)ターメリックとライムの香りをアクセントにした点心。(4)二十四節気の考え方を体感して欲しいという思いが込められた旬の食材が並ぶ。(5)中国の長い歴史が育んだ多彩な美食文化と、タムシェフの飽くなき探求心が融合し、マカオのグルメシーンに新たな輝きを添えている。
四季折々の味覚を堪能できる
広東料理の新境地
マカオを代表するラグジュアリーホテル「ウィン・パレス」に静かに佇む名店「Chef Tam’s Seasons(シェフ・タムズ・シーズンズ)」。2025年版『ミシュラン・ガイドマカオ』で二つ星を獲得し、さらに「アジアのベストレストラン50」においてマカオ唯一のランクインを果たした、いま最も注目を集めるガストロノミーの殿堂。
エグゼクティブシェフ、タム・クオック・ウォン氏が創出するのは、中国の二十四節気に着想を得た、繊細かつ革新的な広東料理の世界。旬の滋味を尊び、身体を慈しむという東洋の叡智を、現代的な感性で昇華させた一皿一皿には、季節の息吹とともに深い哲学が宿る。たとえば、地元産のイチジクの葉の上で、鶏の旨味を凝縮した出汁とともにやさしく煮込まれた魚料理。その味わいは、伝統的な技法への敬意と、シェフ独自の美意識が織り成す美食の芸術品といえよう。
季節の巡りを皿に映し出す、唯一無二の料理の数々。その感動を求めて、世界中の美食家たちがこの扉を叩くのだ。
「Chef Tam’s Seasons」──そこには、季節の移ろいを五感で愉しむ至福の食体験が待っている。
Information
Chef Tam’s Seasons(シェフ・タムズ・シーズンズ)
Wynn Palace, Av. da Nave Desportiva, Macao
TEL +853 8889 3663
https://www.wynnresortsmacau.com/en/wynnpalace/dining/chef-tams-seasons
五感を刺激する官能の
ヌーベル・キュイジーヌ
眩い光を放つマカオ・コタイ地区。その中心でひときわ洗練された存在感を放つのが、2023年に誕生した「Wマカオ・スタジオ・シティ」。1950年代のハリウッド黄金時代を彷彿とさせるグラマラスな世界観と現代の感性が絶妙に融合するスタイリッシュなデザインでファッション、音楽、アートを愛するトラベラーたちを魅了する。
その最上階、40階に位置するのがモダン広東料理の新境地を切り拓くレストラン「DIVA(ディーヴァ)」。
煌びやかな映画のワンシーンを思わせる空間には、アールデコの優美さに中国伝統のエッセンスを織り交ぜたインテリアが息づき、天井から舞い降りる竜の鱗を模したアートピースが幻想的な世界観を演出する。
提供される料理は広東料理の繊細な技法に、マカオならではの多様な文化が溶け合った“広東ヌーベル・キュイジーヌ”。潮州や湖南のスパイシーな風味を織り交ぜながらも、漢方由来の食材を巧みに取り入れ、見た目の華やかさに反し、どこか心安らぐような優しさを感じさせる。
「DIVA」──それは、味覚、視覚、嗅覚、触覚、そして心をも解き放つ、官能的な美食の舞台。今マカオで、最も洗練された“食の物語”が、ここにある。
Information
DIVA(ディーヴァ)
W Macau – Studio City, Level 40, Avenida de Cotai, Macau
TEL +853 8865 1366
https://www.wmacaustudiocity.com/
Macao
Chiado
シアード

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(1)特製ロブスタービスクは「シアード」のシグネチャーディッシュ。(2)ミシェラン2 つ星を獲得した有名シェフのエンリケ氏は、世界ベストシェフ100 に選出されていて、食材への妥協を一切しないことで有名。(3)ポルトガルの首都リスボンの街並みをイメージした内装になっていて、ポルトガルの文化や伝統を感じることができる。(4)(5)テイスティングメニューは一人あたり898MOP。ポルトガルの最上級ワインを含めたワインペアリングがおすすめ。(6)ツナのたたきを優しい味わいのスープに仕立て、色鮮やかな野菜のピクルスを添えた目にも美しい一皿。
マカオの美食地図に刻まれる
ポルトガル料理の新章
2025年、サンズ・チャイナとマリオット・インターナショナルがタッグを組み、マカオに新たなラグジュアリーの扉を開いた──「ロンドナー・グランド」。ザ・ロンドナー・マカオの中核を成すこのホテルは、ジョージ王朝時代の荘厳な建築様式に彩られ、英国の伝統を感じさせる馬車やロンドンバスが敷地内に配されるなど、イングランドの美学を凝縮した空間が広がる。
ゲストルームは優雅なインテリアで統一されていて、ロンドンの洗練されたタウンハウスを思わせる。そんな非日常の舞台にふさわしい美食の名店が、ポルトガル料理レストラン「Chiado(シアード)」。
ミシュラン2つ星に輝くポルトガルのスターシェフ、エンリケ・サ・ペソア氏が手がけるこのレストランは、伝統に根ざしながらも独自の感性で革新を続けている。アフリカやアジアのエッセンスを織り交ぜ、かつて大航海時代に世界を翔けたポルトガルの食文化を現代の美意識で再構築。伝統と革新が静かに融合するひと皿からは、マカオの地に深く根ざした歴史と記憶が料理を通じて語りだす。
遥かなる航海の記憶に導かれる── その一皿が感性を揺さぶる美しき食の旅へと誘うのだ。
Information
Chiado(シアード)
Shop 2206, Level 2, The Londoner Macao
+853 8118 8822
https://jp.londonermacao.com/macau-restaurants/chiado.html