佐賀の広大な平野を見渡す山々の奥に古湯温泉はある。
古くから湯治効果の高い湯、そして美人の湯として知られる小さな温泉場だ。
そんな山峡の地に、意外性と心地よさに満ちた新しい宿が誕生した。

最上階ＯＮＣＲＩフロアにある「ラグジュアリールーム」。シンプルかつ落ち着いた空間でのんびりとくつろぐための大きなソファが備わる。リビングから一段上がった位置にベッドルームがあり、上質なコットンで包まれた心地よい眠りが堪能できる。隠し扉のような木製の壁ならぬ扉を開けるとバスルームが。山々を望み、大浴場や露天風呂にはないプライベートなバスタイムが楽しめる。

　有明海へと流れ込む佐賀の水脈・嘉瀬川の上流、脊振山系の山あいに古湯温泉はある。小さな温泉場だが、その名の通り、歴史に彩られた古くからの温泉だ。２２００年前に秦の徐福が発見したとされる話や、鶴が傷を癒した鶴霊泉伝説など、ロマン溢れるストーリーを持った温泉地でもあり、近代では斉藤茂吉をはじめ文人墨客も愛した湯治場でもあった。源泉は38℃以下のぬる湯で「美人の湯」としても知られる。
　その古湯温泉の玄関口に建つのが、この４月にリニューアルオープンした「ＯＮＣＲＩ／おんくり」だ。この不思議な響きのある名前は「恩を送る」という意味にちなみ名付けられている。一見するとよくある温泉地の近代的な和風の温泉ホテルにも見えるが、その印象は、石が幾重にも重ねられた重厚だがシンプルなエントランスをくぐった瞬間、見事に裏切られる。
　広々としたロビーにシンメトリカルに置かれたレセプションとコンシェルジュの大きなカウンターが目に飛び込む。シティホテルへとやってきたかのような、いや、それ以上のスーパーモダンな空間だ。潔くシンプルにデザイン構成され、純和風的な要素も華美な装飾もない。だが、「ジャパニーズ・コンテンポラリー」を基本コンセプトにした空間は、日本的情緒に溢れる色や素材を使うことで、モダンさの中にも暖かさと落ち着きがあり、心地よさを感じる。
　客室数は38室。多くは広々とした和風の部屋だが、最上階の「ＯＮＣＲＩフロア」は、新しさと意外性に満ちたフロアに仕立てられている。ゆったりとしたソファが備わるフロア専用のライブラリーラウンジが用意され、モダンな「ラグジュアリールーム」とユニークな床の間アートが楽しめる「ジャパニーズ」そして12畳の和室と大きなリビングそしてベッドルームが備わる「スイート」から構成される。

ＯＮＣＲＩの大きな魅力がイタリアン「ＳＥＢＲＩ」での食事。新鮮かつ珍しい野菜のバーニャカウダそして丁寧に作られたスープと唐津から送られる魚介を使ったブイヤベースが逸品。

　おすすめは「ラグジュアリールーム」だ。漆喰の壁、障子を模した大きな扉に木を基調とした家具で構成され、ロビー同様にモダンな空間となっている。ソファやベッドにいる時の目線に気を配って作られており、大きな窓越しに山々の緑が映え、とてもくつろげる空間だ。バスルームからも景色を望むことができ、気持ちがいい。
　ＯＮＣＲＩの意外性はダイニングにも当てはまる。本格的な会席料理はもちろんモダンキュイジーヌの和洋会席も楽しめる和食処「季味」、そしてロビーと続くかのように隣接するナチュラルイタリアンレストラン「ＳＥＢＲＩ」が揃う。いずれも厳選された地元の食材を巧みに使い、見た目も味も上質さに満ちている。総指揮は、九州出身の鉄人料理人・上柿元勝氏。地元佐賀でも有数のファインダイニングとしていまから注目されている。
　空間も食も驚くばかりだが、しかし、それは決して非日常ではなく、ちょっと上質で快適な日常の延長線にある世界。背伸びすることのない心地よさがここにはある。忘れてはならいのは、ここは国民保養温泉地として指定された温泉であること。本の栞に由来する温泉処「ＳＨＩＯＲＩ」では露天風呂から蒸し風呂、そして砂風呂まで多様にその力を堪能できる。古き良き湯と心地よい時空間を提供する「ＯＮＣＲＩ」。湯治リゾートとでもいうべき新しくて心地よい場所であった。

左／38度とぬるめの湯は身体に負担をかけずゆったりと温泉に浸かれる。美人の湯と知られるが、国民保養温泉地として認められた実力ある温泉。館内には、家族風呂や足湯、砂むし温泉が揃う。
右／最上階のONCRI フロアには専用のライブラリーラウンジが備わる。温泉の合間にここで休息すると、思わず寝込んでしまいそうなほどゆったりとくつろげる空間。

古湯温泉　おんくり／ ONCRI
住所　佐賀県佐賀市富士町古湯５５６
TEL　0952-51-8111
www.oncri.com
一泊２食付き　17,000 円（税込）～