プライベートバンカー、次なるステージへ
【文】一般社団法人ソーシャルビジネスバンク 代表理事 東信吾
人生の最期を迎えた人々への聞き取り調査では「もっと自分に正直に生きればよかった」「働きすぎなければよかった」「家族や友人との時間を大切にすればよかった」といった後悔が、いつも上位に挙げられる。興味深いのは、多くの人がチャレンジをして失敗したことではなく「勇気がなくて行動できなかったこと」や「面倒だからと先送りしたこと」を悔やんでいる点である。人生は残り時間を逆算して考えたとき、早く一歩を踏み出すほど、軌道修正する時間も残されている。私はこの教訓を自分自身の人生の指針としてきた。
プライベートバンカーの価値とは
私は20年以上、プライベートバンカーとして経営者や富裕層の人生に寄り添ってきた。資産運用の相談はもちろんだが、実際に耳にする悩みの多くは、相続や事業承継、親族間の対立、信頼していた人からの裏切りや詐欺被害など、社会的立場がある故に誰にも気軽に打ち明けられない苦しみである。
世間では「お金があるのだから幸せだろう」と見られがちだが、現実は決してそう単純ではない。だから私はプライベートバンカーとして「信頼される存在でありたい」「その人の役に立ちたい」「幸せになっていただきたい」という想いを原動力にしてきた。
当時から私は「資産運用はお客様の関心事のうち1割に過ぎず、残り9割は別のところにある」と考えていた。金融商品の提案は私でなくてもできる。しかし、お客様の人生全体を見つめ、必要な人や知恵をつなぐことこそ、プライベートバンカーの本来の価値だと信じていた
新たな世界での原動力
46歳で金融機関を退き、「寄付者の幸せを願う社会活動家」という新しい道を選んだ。気力も体力も十分にある今だからこそ、自ら発想し、自ら動ける環境で、人生の残り時間を懸ける価値のある活動に挑戦したいと思った。
活動を始めて感じたのは、十分な資産を持つ方でも、継続的に社会貢献へ参加する人は決して多くないという現実である。私の実感では、10人に1人ほどである。それ自体を否定するつもりはない。しかし私は、「支援できる力があるのに寄付をしないことは、人生の豊かさを1つ受け取らずにいることではないか」と感じている。
寄付の本当の価値は、お金を渡すことではない。社会課題に向き合う人々との出会い、志を同じくする仲間との時間、支援を受けた子どもたちの笑顔や感謝の言葉。それらが寄付者の心を満たし、お金では買えない思い出へと変わっていく。
社会活動を通じて新しい自分に出会う
もちろん、最初から自分に合う支援先と出会えるとは限らない。教育分野が合わなければ医療支援へ、地域活動でも多くの支援方法がある。共に歩むNPOを変えることも自然な選択である。寄付にも試行錯誤があり、学びがある。だからこそ、早く始めれば、自分らしい社会との関わり方を育てていくことができる。
寄付の形も一つではない。個人として行う方法もあれば、財団や社団法人を設立する方法、あるいは運営を専門家に委ねられる基金という選択肢もある。経営者やオーナーファミリーであれば、相続や事業承継対策を兼ねた寄付方法も少なくない。私はそうした相談を、原則としてボランティアでお受けしている。複数の企業で顧問を務め、生活の基盤は別にあるからだ。寄付者が喜び、NPOは活動の力を得て、社会に温かいお金が循環する。その結果として私も喜びをいただく。「四方よし」の関係が生まれれば、それで十分である。この5年間で、私を通じて約3.8億円の寄付が社会へ届けられ、共に活動するNPOも40団体を超えた。多くの支援者と力を合わせて、年間7,000万円を超える寄付金を社会に届ける財団を運営しているような責任感がある。
振り返れば、「人の幸せに貢献したい」という思いは、プライベートバンカーだった頃から何一つ変わっていない。金融マンという立場でお客様の人生を支えるのか、社会活動家として寄付者の人生を豊かにするのか。その方法が変わっただけで、目的は一貫している。「全国ドコデモこども食堂」の立ち上げを共にしたロート製薬創業家の山田安廣様(88歳)が、こう語られた。「こんな世界があるとは知りませんでした。おかげで本当に楽しい時間を過ごすことができています」この一言を聞きたくて、私は活動している。
一般に、お金には色はないと言われる。しかし、お金には温度があと信じている。人を思いやる気持ちから生まれた温かいお金が社会を巡るとき、その豊かさは支援を受ける人だけでなく、寄付をした人の人生にも返ってくる。パボーネ読者の皆様にも、その温かな循環を、それぞれの人生の中で育んでいただけたら幸いです。
地域の寄付者、地域のNPO、地域のメガネ店が連携して、経済的事情を抱える家庭の子どもにメガネを届けるプロジェクトを全国17地域で展開。宮城県の寄付者:中国文学者 守屋洋さま(中央)、守屋淳さま(後列左)「メガネの相沢」相澤社長(左から2人目)、パリミキ多根会長(右端)、東信吾(中央後)

寄付により建設されたラオスの中学校での集合写真。

寄付により建築されたラオスの小学校にて。
Profile

東 信吾(あずましんご)
一般社団法人ソーシャルビジネスバンク 代表理事
社会活動家/プライベートバンカー/不動産鑑定士
日本・米国・スイスの金融機関で20年以上プライベートバンカーを経験。2008年より海外での社会貢献活動をスタート。2014年よりグラミン銀行創設者でノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス氏とバングラデシュで人材育成を開始。
公益財団法人東京コミュニティー財団、公益財団法人千本財団(現KDDI 創業者:千本様)、一般社団法人全国ドコデモこども食堂(ロート製薬創業家:山田様)、NPO 法人SK Dream Japan(オートバックス創業家:住野様)、学校法人5HAPPY(マツダ自動車整備専門学校)など合計13 団体の理事、評議員等。5 社の企業顧問。
団体HP:https://sbb.or.jp お問い合わせ先:info@sbb.or.jp