次世代に遺すべき社会的企業への転換

【文】一般社団法人ソーシャルビジネスバンク 東信吾

ただ儲けるだけのビジネスでは、やがて社会から必要とされなくなる。
広島に本社を置く不動産デベロッパー、マリモグループが農業やホテル再生、
さらには居住支援へと事業領域を広げている背景には、そんな危機感がある。
同社は2030 年までに「ビジネス50%、ソーシャルビジネス50%」という大胆な目標を掲げる。
その舵取りを担うのが社長の深川真氏である。

Profile

深川 真(ふかがわまこと)

株式会社マリモホールディングス 代表取締役社長

1973年、広島市生まれ。広島修道大学在学中の1994年に株式会社マリモへ入社し、2007年3月に代表取締役に就任。先代が設計事務所として創業した同社は、1990年に分譲マンションデベロッパーへと転身。地方都市を中心に、分譲マンションの供給が少ないエリアで事業を展開してきた。深川氏の就任後は、リーマンショックという危機を乗り越え、不動産総合デベロッパーへと成長を遂げている。
アウトドアを愛し、ボーカル活動にも取り組む一方、社会貢献への関心が高い。海ごみ回収活動をはじめ、公益財団法人深川真マリモ奨学財団を通じた経済的困難を抱える学生への支援や東南アジアで複数の学校を寄贈。さらに海外NGO「Child’s Dream Foundation」の日本サポートオフィスの立ち上げや運営支援を行っている。

社会課題をビジネスで解決する

深川氏は大学4年生のときに家業である同社の手伝いを始めた。当時の売上は約10〜20億円。その後、全国の地方都市でマンション開発を進め、着実に成長を遂げる。人口10万〜30万人規模の219都市を自ら歩いたという。しかし、社長就任直後にリーマンショックが直撃し、倒産の危機に直面する。それでも深川氏の指揮のもと、現在では連結売上約750億円、従業員1,200人超へと拡大した。
地方都市を歩く中で、深川氏は人口減少や空き家問題、農業の担い手不足といった社会課題を肌で感じてきた。住宅を供給するだけでは地方は持続的に成長せず、文化も継承されない――。こうした問題意識から「社会課題をマリモが取り込み、事業として解決する」というソーシャルビジネスへの挑戦が始まった。

農業への挑戦で伝えたいこと

その象徴が、広島県神石高原町にあるマリモファームである。山間部に広がる土地で稲作を行うが、決して効率的とはいえない。それでも、このファームの存在自体が地域に安心感をもたらし、交流を生み、「農業が続いていく」という希望につながっている。もしこの事業がなければ、里山は荒廃していたかもしれない。雇用も生まれ、若者が関係人口として出入りする光景は、地域に新たな息吹を与えている。
さらに注目すべきは、農薬や肥料を使わない自然栽培である。生産性を度外視したこの農法は、自然との共生を見失いがちな現代人に「どう生きるか」を問いかける。農業を核に雇用を生み、里山文化を継承し、将来的には観光とも結びつける構想は地方創生のあるべき姿といえる。
また、瀬戸内の周防大島では、廃業した海の家をホテルとして再生した。地域の衰退を食い止めたいという地元の強い思いに応えた取り組みである。

入居者の「信用」よりも「居場所」を優先

マリモは都市部の社会課題にも踏み込む。居住支援型シェアハウスはその代表例だ。例えば、50代後半の単身男性は、住まいも信用も失い、転居先が見つからない状況にあった。緊急連絡先もなく、家賃滞納歴もある。一般的には入居が難しいケースである。しかし、この男性は同社が運営する低賃料の清潔感あふれるシェアハウスに入居できた。心身が安定した後、生活保護を受給し、現在は落ち着いた生活を送っている。同様に、退院後の行き先がなかった精神疾患のある60代男性や、身寄りも資金もなく住まいを失った70代女性も受け入れている。ここでは「信用」よりも先に「居場所」がある。入居者同士がリビングで言葉を交わし、「何かあれば誰かが気づいてくれる」という安心が生まれている。深川氏は、単身者の孤独という見えにくい社会問題の解消に取り組みたいと語る。

次世代に引き継ぎたい企業を遺す

これらの取り組みの根底にあるのが、深川氏の「利他と感謝」という経営哲学である。京セラ創業者・稲盛和夫の思想に学びつつ、それを理念にとどめず、収益を伴う事業として実装している点にマリモの特異性がある。
もちろん、ソーシャルビジネスは容易ではない。課題も多い。それでも挑戦を続けるのは「社会に必要とされる事業」をつくることこそが企業の持続性につながると考えているからだ。地方に仕事を生み、人の流れをつくり、魅力を発信する。マリモの挑戦は、不動産会社という枠を超え、「社会の基盤を支える企業」へと進化する過程にある。深川氏は語る。「お客様や社員に支えられてマリモは成長できました。この年齢になって実感しますが「利他と感謝」の実践は、人智を超えたところでビジネスに良い影響を与えます。これからは地に足がついたソーシャルビジネスを創出することで社会還元を行い、地方にいても未来を描ける社会を築いていきたい」
その静かな覚悟が、日本の次のかたちを示している。


Profile

東信吾(あずましんご)

一般社団法人ソーシャルビジネスバンク
代表理事

日本・米国・スイスの金融機関で20年以上プライベートバンカーを経験。2008 年より海外での社会貢献活動をスタート。2014 年よりグラミン銀行創設者でノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス氏とバングラデシュで自動車整備士を養成する学校を運営。日本でも複数の社会貢献プロジェクトを創出し、「温かいお金」の社会循環を実践する。


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(1)左:東信吾 右;株式会社マリモホールディングス 深川真
(2)山口県周防大島にて海の家を再生し、新しいホテルが誕生。
(3)これまでカンボジアやラオスにて合計4校の小中学校を寄贈。