1953年、ある白人青年が母親の誕生日に自分の歌をプレゼントしようと、メンフィスのスタジオでバラードを録音した。その後、青年の歌は《ロックンロール》を確立し、音楽をまったく新しい次元へと導くことになる。青年の名はエルヴィス・プレスリー。米テネシー州メンフィスからエルヴィスは、ロックンロールを携えて、世界の王に君臨した。

エルヴィスの聖地:グレイスランド

エルヴィスの聖地:グレイスランド
エルヴィスが生涯を過ごした大邸宅グレイスランド。生前に彼が愛用したステージ衣装のバックにはゴールドディスクやプラチディスクが壁一面に展示されている。

メンフィスの乾いた風が生み出したブルース音楽

テネシー州メンフィス。エジプトの古代都市と同じ名を冠したアメリカ合衆国南部の街は、19世紀後半に綿花の集散地として発展した一方、多くのアフリカ系アメリカ人が奴隷として過酷な労働を強いられていた。灼熱の太陽の下、どこまでも続く赤茶色の大地で労働者たちが口ずさんだ歌からブルースが生まれ、R&Bやソウルへと音楽は多彩に展開していく。メンフィスは、アメリカ音楽の故郷なのだ。

エルヴィスの聖地グレイスランド

メンフィスは、音楽と重要な出逢いを果たした男がいる街として名が知られている。エルヴィス・アーロン・プレスリー。米ローリング・ストーン誌が2009年に発表した『歴史上もっとも偉大なシンガー100』の3位に選ばれたエルヴィスは、ザ・キング・オブ・ロックンロール、永遠のセックスシンボル、アメリカンドリームと称され、いまだに生存説が飛び交うなど、死後30年以上経た現在でも世界的に絶大な人気を誇る。
エルヴィスはギター1本を携え、わずか4ドルで母親の誕生日用の歌を録音した。その1年後には、プロとしてのキャリアをスタート。エルヴィスの歌は人種問題が色濃く根付いていたアメリカ南部で、アフリカ系アメリカ人のリズム&ブルースと白人のカントリー&ウエスタンを融合させた《ロックンロール》として、人種の壁を越え20世紀音楽界最大のムーブメントを巻き起こした。
一躍時代の寵児となったエルヴィスは、メンフィス郊外に広大な土地と南部の伝統様式を活かした邸宅「グレイスランド」を購入。生涯をここで過ごす。エルヴィスの死後グレイスランドは一般公開され、年間数十万人が訪れる聖地となっている。エルヴィスの大ファンである小泉純一郎首相(当時)がブッシュ大統領(当時)とともに訪れ、子どものように楽しんでいたことは有名。

エルヴィス聖地巡礼
エルヴィス聖地巡礼
エルヴィス聖地巡礼

キャビン内のソファは離着陸時にはシート、就寝時にはツインサイズのベッドの機能を果たす。

クラス最大のキャビンスペースはさまざまなスタイルオプションや素材のバリエーションに対応。

最高技術の職人技により細部まで美しく仕上げられている。


グレイスランド GRACELAND
3734 Elvis Presley Blvd., Memphis, TN 38116
TEL +1-901-332-3329
www.elvis.com

わずか4ドルでロックンロールは誕生した:サン・スタジオ

わずか4ドルでロックンロールは誕生した:サン・スタジオ
いまも当時の面影をそのまま残すサン・スタジオ。

ブルースの熱がいまも残る伝説のスタジオ

多くのブルースファンにとって、サン・レコードの果たした功績は計り知れないものだろう。カール・パーキンス、ロイ・オービソン、ジョニー・キャッシュ、ジェリー・リー・ルイス、ハウリン・ウルフ、B.B.キング… など、サン・レコードは多くの伝説的なブルース・アーティストの音源を世に輩出したレーベル。
創設者のサム・フィリップスは、1950年にメンフィス・レコーディング・サービス(サン・スタジオの前身)を設立。その後1952年にサン・レコードを立ち上げ、良質な黒人向けレコードを多数リリースしてきた。また4ドルで誰でもレコーディングできるサービスも同時に行っており、ここを訪れたエルヴィス・プレスリーと運命の出逢いを果たす。1954年7月エルヴィスの初シングル『That’s AllRight 』をリリース。このとき伝説が生まれた。
現在サン・スタジオは当時の面影わずか4ドルでロックンロールは誕生した:サン・スタジオをそのまま残し一般公開されている。赤レンガ造りの小さな建物に輝く〝SUN.のロゴはいまも健在。中に入るとマディー・ウォーターズやアイク・ターナー、ハウリン・ウルフがレコーディングした部屋に入ることができる。いまも観光用にレコーディングできるので、伝説の地で思い出の音を残すのも面白い。スタジオにはアーティストたちの熱い想いや嗄れた歌声、ブルースの魂がいまも脈々と息づいている。

音楽好きの大人のカルチャーリゾート:メンフィス

音楽があふれる街メンフィスは、とにかく明るい。街中は音楽にあふれ、ふいに入ったカフェが実はエルヴィス行きつけの店で彼の指定席が〝プレスリー・シート.として残されているなんてことも。ほかにもオーティス・レディングなどを輩出した「スタックス博物館」、ギター・メーカーのギブソン本社のショールームなどが揃う。メンフィスは、音楽好きの大人のカルチャーリゾートなのだ。

世代を超えてエルヴィスの魂は永遠に生き続けている。
アメリカ南部のリアルな空気が体感できる街。
どこを切り取っても絵になるメンフィスの風景。

世代を超えてエルヴィスの魂は永遠に生き続けている。

アメリカ南部のリアルな空気が体感できる街。

どこを切り取っても絵になるメンフィスの風景。


サン・スタジオ SUN STUDIO
706 Union Ave., Memphis, TN 38103
TEL +1-901-521-0664
www.sunstudio.com

音楽があふれるビール・ストリートの夜

音楽があふれるビール・ストリートの夜
ビール・ストリートでは夜な夜な熱いソウルが奏でられる。

ブルースの聖地ビール・ストリート

メンフィスが夕暮れに包まれはじめると、中心街ビール・ストリートがにわかに活気づく。きらびやかなネオンが通りを照らし、どこからともなくソウルフルな歌声が聴こえてくる。まさに音楽の街の夜。この光景は、連綿と続くメンフィスの歴史なのだ。
かつて綿花畑で重労働を強いられていたミシシッピ周辺の労働者たちは、週末になるとどこからともなくメンフィスのビール・ストリートに集まり、「すこしでも良くなる明日」を求めて歌を歌い、その歌がブルースへと昇華した。
ビール・ストリートは昔も現在もメンフィス一の人気スポットで、多くの観光客が毎夜最高の音楽と料理そしてバーボンを求めて集まってくる。ここでの楽しみ方は至極かんたん。通りを歩き、気に入った音楽が流れてくる店に入る。これだけで最高のメンフィスの夜が楽しめる。

ブルースの巨人B.B.キングス・ブルース・クラブへ

ビール・ストリートの一軒、B.B.キングス・ブルース・クラブを選ぶ。ここはいまもなお現役のブルースの巨人B.B.キングがオーナーのクラブ。淡い照明にバーボンの甘い香りが漂う店内ではブルースはもちろん、ロックやカントリーなど幅広くアメリカ音楽のライブ演奏が楽しめる。ビール片手に地元名物のスペアリブにかぶりつき仲間とワイワイ談笑するグループ、カウンターでは肩を寄せ合いバーボンを傾けるカップルなど、皆それぞれの夜を楽しんでいる。ステージでは、甘美なリズムに合せて『パープルレイン』を歌い上げるシンガーの汗がスポットライトに照らされ、妖しくも美しい輝きを放つ。そのうち店内の熱気が高まると誰ともなく躍りはじめ、フロアはダンスホールに。ステージでもフロアでも音楽と笑顔があふれる夜。この街には「音楽の魂=Soul」が現在も脈々と息づいていることを確信する。

ブルースの聖地ビール・ストリート
ブルースの聖地ビール・ストリート

ブルースの聖地ビール・ストリート

左上/誰からともなく躍り出しフロアはダンスホールに。
左下/ビール・ストリートの夜は終わらない。
/ゆったりと音楽に身を委ねるのが楽しむ秘訣。

B.B.キングス・ブルース・クラブ

B.B.キングス・ブルース・クラブ
B.B. KING’ S BLUES CLUB
143 Beale St., Memphis TN 38103
TEL +1-901-524-KING(5464)