ヘリテージに滞在する至福のひととき―――
近代の夜明けを告げる美しき監獄に憩う
『星のや奈良監獄』


取材・文:朝岡久美子  写真:森川諒一

『星のや奈良監獄』のメインラウンジ。「旧奈良監獄」という歴史的建造物に新たなる風を吹き込むエレガントでシュールな空間。大胆な現代的デザインが印象的だが、開放的な吹き抜けの空間は明治期の近代建築の重厚感を受け継いでいる。

今年6月、『星のや奈良監獄』が開業した。
明治の五大監獄の一つ、「旧奈良監獄」という文化財を保存し、活かす
壮大なプロジェクトが7年の歳月を経て、その全貌を現した。
日本近代の建築史に名を刻む美しきヘリテージに憩う醍醐味————
重要文化財である監獄を中から体感する未知なる滞在経験は
きっとあなたの心に深く刻まれることだろう。

赤レンガの正門をくぐり、
圧倒的な非日常へと足を踏み入れる———


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(1)『星のや奈良監獄』の表門。国内一のヘリテージホテルにふさわしい威厳あるたたずまいだ。(2)『星のや奈良監獄』を俯瞰する。ダイナミックさと非の打ち所のない建築美を誇る。(3)表門からホテル(客室)棟を臨む。額縁のようなアーチが描きだす美しさは、監獄建築とは思えない芸術性に満ちていた。(4)表門をくぐると一挙にメインアプローチが広がる。完璧なまでのシンメトリックな美しさは、同時に静謐さをも湛えている。

“ヘリテージ”を活かす力

昨今のインバウンド需要を受け、日本は今、観光立国として、さらなる施策が問われている。中でも世界遺産をはじめ文化財を数多く有する日本において、文化・歴史遺産、いわゆる“ヘリテージ”と称されるものを、いかに社会に共有し価値をもたせるかということが、今後の観光施策の在り方において問われている。それは決して海外からの観光客誘致においてだけの課題ではなく、むしろ我々、日本人が自国の観光的魅力を再発見するためにも大きな意義を持つものなのだ。

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そもそも「文化財の社会的共有」とはどのようなことなのだろうか――― 史跡や景観、建造物保存地区などの空間的なものを例に考えてみたいと思う。文化財とは、紛れもなく人々の叡智の結集であり、その知と美の創造的価値が何世紀も経た今なお普遍的に生き続けているからこそ存続し得る稀有なものだ。せっかくそのような場や空間に遭遇したのだから、どんな小さな点でも良いから一人ひとりが最も強く共感できる事柄を見出し、心揺さぶられる体験にまで昇華されるユニークなアプローチが期待される。
例えば、そこに集う我々は、文化財を単に“箱”として捉えるのではなく、その中で繰り広げられてきた営みや背景に思いを馳せ、それを“生きた体験”として共有する。こうして“場所の記憶”が我々一人ひとりの生きた軌跡や思考と重なり合ってこそ、初めてその堅固な躯体は歩み寄ってくるに違いない。それは、もしかしたら、ある種の“問いかけ”となって自らを立ち止まらせ、考えや議論を深める機会や気付きを与えてくれるものかもしれない―――こうした目に見えない感覚や感情を揺り動かす“創造の場”であってこそ、文化財が現代社会において本来の価値や役割を発揮しだすのだ。
だからこそ、何よりも大切なのは現代社会において文化財がよりよく活かされるための具体的な「保存・活用のかたち」だ。ここである一つの壮大なプロジェクトを通してその一例をご紹介したいと思う。
『星のや奈良監獄』――― いざ、「美しき監獄へ」――――。

—— 美しき監獄を紐解く——


滞在の始まりにおもてなしとしてメインラウンジで振る舞われる和紅茶は、美しき絵画をバックに茶道の点前のごとく一期一会の思いで丁寧に淹れられる。背景の絵画は奈良出身のアーティスト三瀬夏之助氏による「日本の絵-小盆地宇宙-」。

メインラウンジ———
“現代の寛ぎ”にふさわしい洗練のリビング空間


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(1)堅固な梁がひと際、目を惹く空間は、明治時代に築造された天井部分を取り払い、そこに出現したオリジナルの建築構造を活かしつつ現代的で居心地の良い空間へと生まれ変わっている。(2)(3)メインラウンジのインテリアコンセプトは、かつて日本が西洋文化を積極的に取り入れた時代の精神を現代的な手法で甦らせている。ヨーロッパの最先端を行くデザイナーの家具を大胆に配置し、地元の現代アート作家たちの絵画やオブジェと対立させている。(4)到着後のおもてなし“茜のティーサロン”では、伝統ある日本の磁器で和紅茶とお菓子をいただく。

近代日本の精神性が 生みだした美の空間

近鉄奈良駅から車で約10分、東大寺「転害門(てがいもん)」を少し先に上がった場所に、2026年6月、『星のや奈良監獄』が開業した。『星のや』は軽井沢・東京・京都・沖縄などに点在し、「その瞬間の特等席へ。」というユニークなコンセプトを持つ日本を代表するラグジュアリーな宿のブランドだ。「旧奈良監獄」という日本が誇る文化財を引き継ぎ、保存・活用を経て誕生した新施設は、非日常の究極のかたちであり、ユニークさの集大成ともいえる。
『星のや奈良監獄』の表玄関を前にたたずむ――― 新たなる近代国家の夜明けを感じさせる力強く、そしてエキゾチックな正門(表門)を仰ぐ。この美しき結界は「旧奈良監獄」時代から受け継がれており、志高き明治の人々の崇高な精神性を湛えるかのように、堂々たる威厳を放っていた。決して監獄だからと言って芸術性を排除しなかった建築家の強固な意志が手に取るように感じられる。

舎房―――オールスイートの客室棟を臨む。
旧監獄では、独居房が並ぶ舎房は“寮”と呼ばれていた


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(1)客室棟を臨む。旧監獄では、独居房が並ぶ舎房は“寮”と呼ばれていた。正面の第三棟は、“保存棟”として旧監獄当時のたたずまいが遺されており、敷地内に併設されている『奈良監獄ミュージアム』の一部となっている。(2)一階、二階にそれぞれ設置された「中央看守所」。ここから放射線状に広がる全舎房を一望できる。この建築構造は「ハヴィランド・システム」と呼ばれ、小人数の監視体制で舎房全体を見渡すことができる最良のレイアウトとされている。近代監獄建築を象徴する光景だ。(3)館内には日中は光が差し込み、時空間を超えた一種独特の空気感を湛えていた。(4)建築をより強固に保つための補強材すら美しい意匠となって訴えかけてくる。

この門をくぐると、約10万㎡にわたる壮大な敷地が広がる。約一世紀の激動の時代を生き、今によみがえった美しき旧監獄で時空間を超えた数々の情景に出合う滞在――― 厳然と存在した監獄の在りし日の営みが放つ独特の空気感は、不思議なことにリノベーションによって生みだされた“現代の寛ぎ”にふさわしい、軽やかでやさしさに満ちた空間を味わえば味わうほどにより深く感じられる。そして、閉ざされた空間が湛える時が止まったかのような静謐さは、我々に、ごく当たり前のように流れゆく、しかし振り返ることのない日々の営みにしばし思いを馳せ、見つめることの大切さを思い出させてくれるのだ。

近代の夜明けがもたらした
監獄の肖像

明治初期、鎖国の世から解き放たれた日本は、欧米列強に「追いつき、追い越せ」という勢いで欧米諸国から近代的な科学技術や西洋的な文化・知識体系を貪欲に取り込み、彼らと対等の地位を獲得することを国家指針としていた。不平等条約改正のためにも日本はあらゆる面において欧米列強に認められる近代法治国家としての顔を描きだせねばならなかった。
「監獄を見れば、その国の国民性や文化水準がわかる」(チャップリンの言葉)と言われるように、日本もまた近代化において最も重要視した施策の一つが、「監獄改良」であり、「自由刑の導入」という非人道的な体罰を廃止し、「一定期間にわたり自由を制限する」欧米型の科刑への転換だった。人としての尊厳を尊重した科刑制度への移行に伴い、監獄の在り方も、また建築的観点からも、より人権を重視したつくりが求められ、大幅な見直しが喫緊の課題となった。
当時、新たなる監獄建造を命じられた法務省所属の建築家、山下啓次郎は欧米の監獄を視察した後、1907~8年にかけてその後の日本の近代監獄建築のモデルとなる「明治五大監獄」と呼ばれる全建造物を一挙に完成させる偉業を成し遂げた。「五大監獄」とは奈良、千葉、金沢、鹿児島、長崎の5カ所に存在したが、中でも、この「旧奈良監獄」は、赤レンガ造りの外壁をはじめ、当時の全貌をほぼ完璧なまでに現存させた唯一のテスティモニー(証人)であり、「近代国家としての日本の威信を示す」、「環境面の改善や処遇を意識した完成度の高い監獄建築の実現」というミッションを完璧なまでに実現させた稀有な監獄としてその名を歴史に刻んだのだ。


独居房を連結させた客室———
オリジナルのディテールと現代的なデザインの融合は、
プライベートでロマンティックな空間を創りだしている


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(1)ウッドボードで包まれたベッドルームは温もりある癒しの空間だ。(2)客室内のダイニング空間。天窓から差し込む光が、神秘的な空気を醸しだしている。客室の広々とした空間は独居房などを9 ~11房連結させている。(3)「The 10-Cell」タイプの客室のリビング空間。(4)漆喰に覆われていた赤レンガの遺構を露わにした内壁やアーチ状の“ヴォートル天井”が歴史の重みを感じさせる。(5)日本における仏料理の系譜を紐解くディナーコース“ガストロノミー・クロニクル”。前菜の一品“黎明期~始まりのパナシェ”。日本の洋食の黎明期イメージを一口サイズのフルコースに見立てたユニークな一皿。(6)メインの一品“成熟期~舌平目のブレゼ”。濃厚なソースの味わいがクラシックなフレンチの王道を行く。ペアリングで供される銘醸ワインとの絶妙なカップリングも至福の味わいだ。(7)(8)(9)夕食前のアペリティフやバータイムに寛げるダイニングラウンジは大人の隠れ家的空間。英国製蓄音機が紡ぎだすアコースティックな音色とともにバータイムを満喫したい。(10)中庭の月明りをモチーフにした幻想的なライトアップが美しい。

「ヘリテージに泊まる」究極の意義

第二次世界大戦後に「奈良少年刑務所」と改名し、2017年の閉庁まで更生教育を重視する施設としてその役目を担っていた「旧奈良監獄」。少年刑務所の閉庁直前に重要文化財に認定されており、のちに文化庁主導による文化財の保存活用における推進事業の一環として「旧奈良監獄の再生プロジェクト」という壮大なる使命が『星のや奈良監獄』の運営元でもある『星野リゾート』に委ねられた。2000年以降、ユニークな再生案件を数多く手掛けてきた日本リゾート業界屈指の創造性と情熱を誇るこの企業は、7年の歳月を経て現代人の憩いの場にもふさわしいラグジュアリーな宿として、この美しき旧監獄に再び尊い命を吹き込んだのだ。
『星のや奈良監獄』は、近代の夜明けを高らかに謳う荘厳なる建築美と人権に配慮した誇り高き監獄としての機能美を限りなく保存しつつ、「ヘリテージ(文化財)に泊まる」という稀有な体験価値の提供を通して、日本における文化財活用の新たなる一章を開いたともいえる。そして、それは究極の非日常性に心揺さぶられる場であり、時空を超えて現代人の感性にも共鳴する独創性に満ちた空間でもあるのだ。
開発や修復にあたっては、実際、どこまで保存し、どこまでをより快適な宿泊空間として改築するかという「保存」と「活用」の二つの現実のはざまでつねに多くの議論がなされたという。しかし、それらの生みの苦しみの過程を経て創りだされた「新たな価値」は、結果的に歴史的遺産部分やディテールの価値をよりドラマティックに際立たせ、一方で、歴史的遺産としての質実剛健さと機能性に徹した合理性が、宿としての心地よさと柔らかな空気感をよりいっそう軽やかに、ロマンティックに描きだすという究極の相乗効果を生み出している。
『星のや奈良監獄』を世界に唯一のラグジュアリーな空間へと昇華させた人々の揺らぐことのない意志と情熱、そして偉大なる過去の叡智へのオマージュ(礼賛)――― そのすべての要素の融合が生みだした奇跡のストーリーを知り、その果実を五感で体感することこそ、「ヘリテージに泊まる」ということの究極の意義なのかもしれない―――。

Information

星のや奈良監獄

奈良県奈良市般若寺町18
ご予約・お問い合わせ/
Tel. 050-3134-8091
(星のや総合予約9:30〜18:00)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyanarakangoku/
*旧奈良監獄から紡がれた建築美と再生のストーリーを体感するガイドツアー「刻ときのプロムナード」が宿泊者限定で開催されている。

現代によみがえる世界のヘリテージ


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(1)正面入り口から「大館(Tai Kwun)」を臨む。現代的な光景にも美しく調和している。(2)英統治時代のコロニアル様式の建築ディテールも保存されている。(3)斬新な建物が、歴史的建造物に溶け込むように増築されたのも一躍話題となった。(4)展示室では身体表現によるエキシビション等も開催されている。(5)(6)イスタンブルの『フォーシーズンズ ホテルイスタンブル アット スルタンアフメット』。かつての刑務所はトルコ・ネオクラシック建築の傑作として、今に保存・活用されている。(7)『コンヴェント・ド・エスピニェイロ』を俯瞰する。外観はいにしえの修道院そのものだ。(8)中世の修道院はモダンで機能的な空間に生まれ変わった。(9)館内には歴史ある教会(礼拝堂)が残されている。

日本ではヘリテージと称される文化財を活用した宿や公共施設は数を数えるほどだが、世界では多くの先例がある。ここでは、監獄を保存・活用した施設をはじめ、歴史的建造物をユニークなかたちで現代によみがえらせた施設をご紹介しよう。

香港の新たな文化発信地としてよみがえる英統治時代の歴史的遺産

香港島のセントラルと上環のほぼ中間に位置するハリウッドロード。ここにたたずむ旧中央警察署を中心とした一連の歴史的建造物は、1864年以来、幾度の増築と再設計を経て英国統治時代の歴史的遺産として大切に保存されてきた。そして、2018年に新たな文化発信をになう複合施設「大館(TaiKwun)」として生まれ変わった。
ヘリテージ活用の一つのロールモデルとして英統治地時代の歴史的景観を今に伝える複合施設は、旧中央警察署・中央裁判所、ヴィクトリア監獄の三つを含む16の歴史的建造物から構成されている。敷地内には現代アートの展示空間の他、ハイセンスなレストラン・カフェ・バーやギャラリーやライフスタイルショップが点在する。そのヘリテージ活用の優れた成果は一つのロールモデルとしても高く評価されており、2019年にユネスコ・アジア太平洋文化遺産保全賞優秀賞を受賞している。

築100年の刑務所を活かした「フォーシーズンズ ホテル」版「旧奈良監獄」

次にご紹介するのは、まさに『星のや奈良監獄』のごとく、築100年の刑務所を改装したラグジュアリーホテル 『フォーシーズンズ ホテル イスタンブル アット スルタンアフメット』だ。1918年に着工された歴史的建造物は尖頭アーチ、装飾的なタイル、そして印象的なドームや塔が特徴的なトルコ・ネオクラシック建築の傑作として高い評価を受けている。「フォーシーズンズ ホテル」というホテルブランドは、ヘリテージを活用したユニークで華麗なる施設をイスタンブルのみならず世界中に展開している。「ヘリテージに滞在する」という唯一無二の体験は世界ではもはや常識なのだ。

王族も愛した中世期の修道院を改装したラグジュアリーなリゾート

最後にご紹介するのは、監獄や刑務所とは対照的な14世紀の修道院を今によみがえらせたポルトガル南部アレンテージョ州にたたずむリゾート『コンヴェント・ド・エスピニェイロ』だ。この宿の歴史は14世紀後半にまでさかのぼる。修道院を意味する“コンヴェント”という名称のとおり、「聖母修道院」という歴史的建造物が原点だ。歴史ある修道院は3年にわたる全面的な改修を経て2005年に新たな姿を見せた。バー空間やレストラン空間も修道院ならではの厳かなラグジュアリー感に満ちている。

街に溶け込み、新たなコミュニティの顔となる
『OMO7横浜 by 星野リゾート』

今年4月、横浜に開業した『OMO7横浜 by 星野リゾート』。「旧横浜市庁舎」を保全・活用し、その歴史的価値を継承するレガシーホテルだ。

戦後建造物で初の「横浜市認定歴史的建造物」に認定された「旧横浜市庁舎行政棟」。建築家 村野藤吾が手がけた昭和の名建築の一つが、今年4月、『OMO7横浜 by 星野リゾート』としてよみがえった。モダニズム的洗練とともに村野建築を語り継ぐ“ディテールの美”――― 優雅な曲線を描く手すり、ドアハンドルの意匠など、その芸術性を今に伝える要素が館内の随所に保存されている。かつて行政棟と議会棟を繋いでいた“市民広間”にあった大階段を館内エントランスホールに移築し、街というコミュニティに溶け込む“集いの場”としているのもレガシーホテルならではだ。

Information

OMO7横浜 by 星野リゾート

神奈川県横浜市中区港町1-1-1
ご予約・お問い合わせ/Tel. 050-3134-8095(星野リゾート予約センター/9:30〜18:00)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/omo7yokohama/


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(A)エントランスホール。重厚感と村野建築の美の粋を感じさせる堂々たる空間。(B)レセプション空間とエレベーターホール。レガシーとモダンが融合した空間だ。(C)客室には大勢で集えるスペースもあり、“かたりばルーム”と名付けられている。(D)ライブラリーラウンジ。寛ぎのスペースも村野建築ならではの色彩と意匠にあふれている。(E)横浜開港100周年記念事業として1959年に竣工。街に溶け込む外観は当時の雰囲気がそのままに感じられる。

美しき監獄からの問いかけ――――
『奈良監獄ミュージアム』by 星野リゾート

法治国家としての日本の近代化において偉大な軌跡を刻んだ「旧奈良監獄」。その崇高な精神の過程をつぶさに感じることができるもう一つの施設が『星のや奈良監獄』の敷地内にある。『奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート』だ。『星のや奈良監獄』に先んじて今年4月に開業し、10万人を超えるビジターを迎えている。

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A棟


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(1)『奈良監獄ミュージアム』を象徴する光景。監獄の成り立ちや近代の行刑制度について学ぶだけではなく、規律に支配され空間や時間を体感することで一人ひとりが想像を広げ、それぞれの“自由”について見つめ直す機会を与えてくれる。(2)(3)展示室A棟では、中央看守所から独居房が並ぶ舎房を一挙に見渡せる特殊構造(「ハヴィランド・システム」)をはじめ、近代監獄ならではの特異な構造についても学ぶことができる。(4)(5)1/420の再現模型は「旧奈良監獄」の建築の原型が忠実に再現している。放射線状に広がった構造(写真(5))が「ハヴィランド・システム」。

文化財としての「旧奈良監獄」の真の価値を紐解く鍵を見つけに

『奈良監獄ミュージアム』は、「旧奈良監獄」の壮大な敷地内の東側に位置するいくつかの棟をミュージアムとして新たに改築したものだ。『星のや奈良監獄』同様に、今回の一連の「旧奈良監獄保存活用プロジェクト」において星野リゾートが開発と運営を担当しており、『星のや』宿泊者は開時間内ならば無料で見学できる。
先に序章で文化財を現代に活かすことについて、箱物として鑑賞や情報を吸収するだけではなく、その場を体験した人々の感覚や感情を揺り動かす“創造の場”であってこそ、はじめて本来の価値や役割を発揮する可能性について記述した。もし仮に「旧奈良監獄」を、「自由と罰」というテーマにおいて、近代日本を象徴する気高く尊い精神と豊かさに満ちた感性が高らかに共鳴する場と捉えるならば、我々にその真の価値を探る手掛かりを与えてくれる鍵を差し出してくれるのがこのミュージアムの存在なのだ。世界で活躍する気鋭のクリエーターを起用し、「旅を楽しくする」という観点から監獄という重く、特異なテーマと空間的特殊性を深く掘り下げ、鋭くもユニークに抉り、我々を様々なアプローチで導いてくれるのだ。

未知なる世界が身近に、リアルに感じられるユニークな展示

では、一つのミュージアムが“創造の場”となり得るプロセスその一つひとつを見てみたい―――
展示エリアは3セクションに分かれており、展示エリアA棟『「歴史と建築」/赤レンガが紡ぐ行刑の歩みを知る』は、「歴史と建築」というテーマを通して、日本国家の近代化にともなう人権をより尊重した行刑制度の転換の経緯や監獄改良の歴史をわかりやすく紐解いてゆく。

保存棟


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(1)『星のや奈良監獄』に併設されている“保存棟” (かつての舎房)は、ミュージアムの行程としてビジターも見学できる。(2)(3)“保存棟”の房舎の扉はかつての形状のままに保存されている。独居房の室内は驚くほど明るい。

B棟


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(4)B棟の展示室では現代のリアルな刑務所を体感できる。この空間では受刑者への支給品が展示されていた。(5)B棟が掲げる7つ目のテーマ「自由」の空間。我々に「自由とは?」を改めて考えさせてくれる特別な空間だ。(6)この人物像を前にして我々は何を感じるだろうか?(7)かつての刑務所の暮らしぶりを精巧な模型を通して知る。(8)各地の刑務所で使用されている食器や様式の違いを知る。

展示エリアB棟『「規律とくらし」/受刑者の日常から自由を問う』は、刑務所での営みを、「規律・食事・衛星・作業・お金・自由」という7つのテーマから紐解いてゆく。刑務所という未知なる世界がより身近に、リアルに感じられるようディスプレイや図解も感覚的に感じ取れるようわかりやすく工夫されており、その面白さにおのずと惹きこまれずにはいられないだろう。7つ目のテーマである「自由」と題されたセクションでは、空虚な空間にたたずみ、窓の外をうなだれるように見つめる一人の受刑者をモチーフにした像の姿を見た瞬間、あなたは一体、何を思うだろうか…?

時空間を超えた人と人との絆を紡ぐ“創造の場”

このミュージアムをより稀有なものにしているのが三つ目の展示エリアC棟『「監獄とアート」/感性を揺さぶり、当たり前の日常をアップデートする』だ。前のセクションで「自由」というテーマのインスタレーションを体感した後にこのセクションで目にするのは、「人間の業ごう」や「罪と罰」、「時間と命」といった日頃、我々が見て見ぬふりをしてしまいがちな辛辣なテーマだ。あえて哲学的な難題に切り込み、多彩な表現手段で世に問う5人の気鋭アーティストたちによる作品群。こうして、ミュージアムは時空間を超えた人と人との心と絆を結び、未来へとその思いを紡ぐ“創造の場”へと我々を導いてゆく。
中でも少年刑務所時代の受刑者たちの詩と言葉を市民や有志約200名が一丸となり、刺繍というかたちで一枚の布に紡ぎだした奈良県出身のアーティスト作品『声を縫う』(西尾美也)は、布に刻み込まれた受刑者たちの幾重もの心の叫びが重なり合い、この場を体感した一人の人間として、自らも生きる理由や日々の営みについて向き合わざるを得なかった。
「自由とは?そして我々もまた、本当に真の自由に生きているのだろうか…?」
間違いなく、この美しき監獄は私たちに何かを問いかけているのだ―――。

C棟


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(9)キュンチョメ『 海の中に祈りを溶かす』/C棟では「監獄とアート」テーマに、5人のアーティストの作品が展示されている。「人間の業ごう」や「罪と罰」への思索を深め、心を遠くへと誘う時空を創造している。(10)(11)西尾美也 『声を縫う』/旧少年刑務所時代の受刑者たちの心の叫びを紡いだ壮大な作品。市民参加型のアートであることも意義深い。

Information

奈良監獄ミュージアム
by 星野リゾート

奈良県奈良市般若寺町18
https://hoshinoresorts.com/nara-prison-museum/ja/
開館時間/ 9: 00~17: 00
(最終入館時間/16: 00)
*チケットは上記公式HP上で事前予約要 (『星のや奈良監獄』宿泊者は予約の必要無し)