雅なる“水辺の私邸” ― 古代人の粋に遊ぶ ― 星のや京都

千年の昔、平安貴族たちが舟遊びに興じ、
その情趣を歌に詠み紡いだ悠久なる川の流れ。
古代人の息づかいに導かれ、嵐山の贅と粋を堪能する――。
取材・文:朝岡久美子 写真:大道雪代

風折烏帽子(かざおれえぼし)に腰みのの古式ゆかしき装いで、船上から手綱で海鵜を飼いならして川魚を獲る漁法は、平安時代から続く由緒正しきものだ。

古代人の粋に興じる“鵜飼”の夕べ

 これからの季節、「星のや京都」が満を持して最上の遊びを知る人々に贈るメインイベントがある。ご存知、嵐山の鵜飼だ。

 かつて在原業平が、「大堰川 うかべる舟のかがり火に をぐらの山も 名のみなりけり」と詠んだように、小倉山でさえその姿をひそめるほどの幽玄で厳かな情景が毎夜繰り広げられる。「星のや京都」のゲストなら、プライべートの屋形船でミシュラン一つ星に輝いた宿自慢の会席に舌鼓を打ちつつ鵜飼見物に興じる特別なプランも用意されている。

 水面に揺れるかがり火は、紅葉が訪れるまでのひと夏、嵐山の若々しい姿をより一層、勇壮に描き出す。その勇姿は、訪れる人々にひと夏をより一層、ゴージャスに乗り切る活力を与えてくれるに違いない。

プライベート鵜飼鑑賞船

  • 期間:2019年9月23日迄 (8月16日は除外日)
  • 料金:1名58,300円 (税・サービス料10%別)
     *宿泊代別
  • 定員:1日1組限定(1組2~4名)・宿泊者限定
  • 予約:公式ホームページにて、7日前までに要予約

*会席料理の先付と八寸を船内にて、その他の料理は鵜飼終了後、星のや京都ダイニングにて提供します。

  • 屋形船にかがり火を灯した鵜飼船が近づき、鵜が漁をする様子や鵜匠の手綱さばきも眼前で鑑賞できる。船上での鵜飼見物は平安貴族の風雅な趣を感じさせる。

  • 「星のや京都」プライべート屋形船では、シャンパンや三味線の音を楽しみながら、優雅なひとときを。

  • 鵜飼の夕べを華やかに彩る一品。祗園の割烹で育った総料理長久保田一郎氏ならではの伝統の技が、オリジナルの京焼の器に映える。フランスで修業を積んだ氏の真骨頂は、洋のエッセンスを巧みに加えることで京料理の美しさと細やかさをより一層引き立てることにある。

星のや京都への旅路

悠久なる川の流れ
― 麗しき時への序章―

 眼前に小倉山の優雅なたたずまいを望みつつ、嵐山の渡月橋を後にする。橋を背に桂川の支流、大堰川を「星のや京都」の船は静かに進む。もちろん、鵜飼が行われるのもこの川だ。

 千年の昔、平安貴族たちが舟遊びに興じ、その情趣を歌に詠み紡いだ悠久なる川の流れ。川上へと昇るほどに次第に下界の喧騒から解き放たれ、ただひたすらに水のせせらぎと、迫りくる壮大な自然の語らいに心が研ぎ澄まされてゆく――。

 千年の愉楽を感じさせる小さな船旅は、これから始まる麗しき時へのプロローグだ。川の流れという“結界”を経て、心も静かに江戸時代の豪商の別邸の面影を美しく忍ばせる“水辺の私邸”に足を踏み入れる。

千年の昔から変わらぬ音の世界

 明け方や夕に部屋の窓辺にたたずんでいると、耳に入ってくるのは、水を求めて山から下りてくる鹿の鳴き声や、美しい声でさえずる鳥の声。紀貫之が「夕月夜 小倉の山に鳴く鹿の 声のうちにや 秋は暮るらむ」と詠んだように、もしも、“古代の音”というものが存在するとしたら、千年の昔も今も変わらない、自然界の生き物たちが奏でるこんな麗しき生命の声なのだろうか…。そんな思いに駆られながら、ゆったりと流れる時間を何もせずに過ごす。

 京の人々の日常生活の中にある四季折々の設えの美や営みをごく自然なかたちで体感できるのもこの上ない喜びだ。

 風鈴の音に耳を澄まし、薄暮の憂いを帯びた空を眺めながら、太古の音に耳を傾けるひととき― 今日は篠笛の音を聞きながら万葉の世界に浸る。千年の時を超え、静謐な時の流れに身を投じる幸せ。ただ、時の流れに身を任せる悦楽をここに知る――。

  • 水の庭で楽しむ夜奏会では、篠笛や琴、三味線などの音を堪能する。小倉山の情景をバックに滝の音と自然の音が織りなす至極のひとときを。

  • モダンなつくりの客室も静謐感に満ちている。

  • 京焼・清水焼の職人による風鈴の音に、いにしえの風を感じる。

写真:最上梨沙

Information

星のや京都

京都府京都市西京区嵐山元録山町11-2
TEL. 0570-073-066(9:00~20:00)
https://hoshinoya.com

現代を休む日 星のや

日常から離れて過ごす最も上質な時間――。
一歩足を踏み入れた時から、土地の香りが漂い、
独特の世界へと誘われる。
おもてなしの心がもたらす穏やかな安らぎ。

  • 星のや軽井沢
    -谷の集落に滞在する-

  • 星のや竹富島
    -離島の集落に滞在する-

  • 星のや富士
    -丘陵のグランピング-

  • 星のや東京
    -塔の日本旅館-

  • 星のやバリ
    -聖なる川に向かう運河の集落-

  • 星のやグーグアン
    -温泉渓谷の楼閣-

    2019年6月30日開業

湖のオーベルジュで極める禊三昧

― 祈りと清めの旅 ― 星野リゾート ロテルド比叡

古来、信仰の山と崇められてきた比叡の山。
その奥深く、唯一無二の誘いへと私たちを導いてくれる麗しの宿がある。

  • 「精進フレンチ」前菜~アヴォカドと季節のサラダ。ちなみに、二泊三日の“禊滞在”プログラムの最終日には、宿が満を持して贈る正真正銘のオリジナル・フレンチディナーが待っているのでご安心を。

  • これぞロテルド比叡のスペシャリテ。琵琶湖畔、近江の食文化の代表作“鮒鮓”を、4年熟成を経た特別な甘露漬け鮒鮓をフォアグラと組み合わせ、軽やかに仕上げた逸品。最終日には味わえる!

  • 黒米とトリュフのリゾット!

壮麗な山と緑が描く清らかな情景

 京都と滋賀の二つの県を横断する比叡山。星野リゾート ロテルド比叡は、天台宗の総本山 延暦寺の程近く、標高600mに近いところに位置する山上のオーベルジュだ。瀟洒で貴婦人のようなたたずまいが、緑濃き山の壮麗さに美しく映し出される。

 “山上のオーベルジュ”は、また“湖のオーベルジュ”でもある。東に壮大な琵琶湖と大津の街を俯瞰し、南にダイナミックな大阪の市街を一望する。“ 風光明媚”という言葉は恐らくこのような状況を語るのだろう。山頂から靡く引き締まった風が、湖と空の織りなす水色の情景にたおやかに注がれる。遥かなる歴史に育まれた厳かな気配が、より一層心を和やかに研ぎ澄ませてくれるのを感じるだろう。

”舌鼓を打つ”精進フレンチ

 さて、今回の滞在のテーマは“比叡山厄祓い三昧”。と、言っても、もちろんオーベルジュ滞在の魅力を同時に満喫できるのもロテルド比叡ならではだ。その醍醐味は、もちろん供される料理の独創性と豊かさにある。

 とはいえ・・・、禊滞在を敢行中のゲストには肉も魚も厳禁。野菜と米が中心の特別な「精進フレンチ」が供される。しかし、これが文字通り“舌鼓を打つ”にふさわしい得も言われぬ味わいを醸しだす。色彩に満ちた様々な食材たちのみずみずしさに、「生命を食む」ことの大切さと慈しみを覚えずにはいられないだろう。

比叡山を巡る祈りの一日

 滞在二日目の朝、六時半。祈りの一日の始まりだ。延暦寺の中枢、国宝「根本中堂」で行われる朝のお勤め。朝食後、比叡の霊験あらたかな参道を巡りつつ、かの「千日回峰行」を満行した生き仏 大阿闍梨に護摩炊き祈願とお加持を賜るというこの上ない栄誉に与る。

 巡礼と祈りはさらに続く。午後は比叡山の滋賀県側山麓に広がる山王様の総本山 日吉大社の23社に参詣。午後四時、天上の窟屋で満願成就。ようやく、我に返り、得難い体験に満たされた我が心の声を静かに聞く。しかし、歓びと高揚感に、ひたすら興奮気味の我が身の未熟さに、未だ信仰の道半ばと感じる…。

 神々はこう仰せられる。“旅路は一度ならず。得難き修業の道を繰り返せよ”と。

  • 延暦寺付近より、琵琶湖を望む。神々しいばかりの朝の麗しい眺めに身も心も引き締まる。

  • ディナーの後はスパへ。塗香や超軟水の比叡の霊水(日枝の霊水)を用いた全身の経絡マッサージで身も心も浄化される。

  • 客室は至ってシンプルだが、コンフォートに満ちている。

  • 無動寺明王堂。千日回峰行の本拠地でもある不動明王の祀られたこの寺で、大阿闍梨による護摩炊きとお加持に与る。

  • 比叡山の山麓に広がる日吉大社は、京の都の表鬼門にあたることから魔除けの社とされてきた。

Information

星野リゾート ロテルド比叡

京都市左京区比叡山一本杉
ご予約・お問い合わせ:TEL.0570-073-022(9:00~20:00)
https://hr. hotel-hiei.jp/