もうひとつの顔で社会を変える
今回は本業以外に社会活動家としての顔を持つお二人からお話を伺います。俳優の東ちづるさんは33年前に骨髄バンクの支援活動をスタートし、2012年に誰も排除しない「まぜこぜの社会」をめざして『一般社団法人Get in touch』を設立。2017年には特性豊かなマイノリティパフォーマーと「まぜこぜ一座」を旗揚げし、舞台や映画も制作しています。山田安廣さんはロート製薬創業家として、ロート製薬の発展に貢献し、現在は社会活動に専念しています。まず、お二人から活動の原点について伺わせてください。
【対談】俳優 東ちづる(中央)& ロート製薬(株) 創業家 山田安廣(左)
【ファシリテーター】一般社団法人ソーシャルビジネスバンク 東信吾(右)
【写真協力】インターコンチネンタルホテル大阪
つながりを大切にする社会を作りたい
東:活動のきっかけは自分自身も生きづらさを感じていたからです。常に健やかな〝健常者〞なんて存在しません。誰もが歳を重ね、患者や障がい者になりえますから。「支援する・される」という関係ではなく、困っている多様な人たちとつながりながら、どんな状態でも自分らしく生きられる「まぜこぜの社会」を目指したいという想いです。それをワクワクするエンターテイメントで表現しています。
山田:私の祖父は奈良県で初めての盲学校を設立しました。父は、社会で脚光を浴びない基礎研究に助成をする財団を設立しました。私は二人の想いを見て育ったので、自分も社会の根底に流れる課題を解決したいと思い、退職後はパートナーの方たちと共に「ドコデモこども食堂」を全国で展開しています。東ちづるさんと同じように、社会の普遍的な幸せを願っています。東さんがおっしゃる「寄り添うではなく、つながる」という言葉は良いですね。
「つながる」大切さ
東:「共生」「共に生きる」という表現は、マジョリティがマイノリティに無自覚な上から目線で呼びかけていると感じています。浅く広くゆるく依存し合う社会だと、困った時はお互い様という感覚でSOSを出せ合えます。それが本来の多様性社会です。「社会に役立つ人」になる以前に「人の役にたつ社会」をつくりたいです。
山田:東さんは多くのNPOや社会活動家と連携しています。いつも「つながる」を意識しておられます。私たちが進めている「ドコデモこども食堂」も地域の支援団体が91団体、地域の飲食店170店舗になりました。皆さんのご協力を得て、全国の子どもたちに食事を通じた見守りを提供しています。自分ができることは限られていますので、志が高い多くの人たちとのつながりを大切にしています。
経営者として社会課題に向き合う
東:活動を通して多くの気づきを得て、私自身も人生が深くなっていると感じています。ところで山田さんは、家庭で検査ができる妊娠検査薬を日本で初めて発売されたんですよね?
山田:当時、一部の団体から家庭で安価に検査できるのは困ると言われましたが、妊娠する女性たちの負担を少しでも軽くしたいという想いから、5年以上も関係者と話し合って、世に出すことが出来ました。今から30年以上も前の話です。今では一般的な検査薬ですが、当時は社会的使命感から必死でした。企業活動の話が出たついでに伺いますが、俳優の東さんが企業研修をされていると伺いました。意外ですね。
東:「企業の社会貢献は結果として社員さんやそのご家族の幸せにもつながり、お客さまにも選ばれる会社になって業績も上がる」という講義やワークショップをしています。山田さんのような経営者が率先して社会課題に取り組まれていることは、私たちの大きな励みになっています。
課題解決の実現に向けて
山田:今の自分や企業があるのは、自身を取り巻く社会のお陰です。私は東さんのいう「まぜこぜ」な社会が当然である社会を願っていますが、実現に向けては障壁があるかと思います。
東:マイノリティはデリケートな存在とされて、メディア露出が難しい現実があります。それでは〝存在しない人たち〞になってしまいます。〝ほどこしではなく、全ての人にチャンスある〞業界になってほしい。そこで、2017年にマイノリティパフォーマーの座組「まぜこぜ一座」を旗揚げしました。毎年舞台公演を開催したり、映像や映画制作もしたりしていますが、未だメディア出演は実現できていません。
山田:私は社会の圧力と戦いましたが、東さんも見えない壁と戦っているのですね。
東:「まぜこぜ一座」に触れた多くの人から、楽しみながら社会課題と向き合うきっかけになったという声が寄せられています。今の目標は海外公演です。オリエンタルな魅せ者ショーが海外で評価されて凱旋公演をすれば、「まぜこぜの社会」の扉が見えてくると思っています。多くの方にご賛同とご協力をいただければ幸いです。
山田:それは楽しみですね。広く社会課題を認識してもらうには時間がかかります。お互い地道に頑張りましょう。
東信吾:お二人に共通するのは、社会課題に対応できない政治や行政を憂うのではなく、試行錯誤しながらも自らが課題解決に向けて行動していることです。PAVONEの読者で社会活動に関心ある方は、一般社団法人Get in touch や「ドコデモこども食堂」も応援していただけると幸いです。
Profile
山田安廣(やまだやすひろ)
信天堂山田安民薬房(現ロート製薬株式会社)創業者である山田安民氏を祖父とし、ロート製薬(株)の初代社長山田輝郎氏の五男として生れる。ロート製薬(株)代表取締役、メンソレータム社会長、(株)アンズコーポレーション会長を歴任。
Profile
東ちづる(あずまちづる)
俳優 / 一般社団法人Get in touch 代表
ドラマや映画、情報番組、司会、講演、出版など幅広く活躍。骨髄バンクやドイツ平和村、障がい者アートなどのボランティア活動を長年続ける。2012年に誰も排除しない「まぜこぜの社会」を目指すGet in touch を設立。自ら描いた妖怪61体を社会風刺豊かに解説した「妖怪魔混大百科」など著書も多数出版。

Profile
東信吾(あずましんご)
社会活動家 / プライベートバンカー / 不動産鑑定士
一般社団法人ソーシャルビジネスバンク 代表理事日本・米国・スイスの金融機関で20年以上プライベートバンカーを経験。2008年より海外での社会貢献活動を始め、2014年よりグラミン銀行創設者でノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス氏とプロジェクトを運営。「温かいお金」の社会循環を実践。多数の財団や社団の理事等を務める。

「まぜこぜ一座」の舞台風景