バリ島のマーメイド

バリ島デンパサールングラ・ライ空港。朝7時すぎのバリ島は風があって涼しい。この島には何度来ても爽快な気分になる。
今回は、仕事の依頼があってやってきた。大きなイベントがあり、そこに世界中の投資家が集まってくる。それを当て込んだカンファレンスで講演をたのまれたのだ。
講演は3日後。それまでは自然保護区内にある絶景リゾートホテルに泊まり、連日ダイビングをすることにした。自然保護区の海に広がるサンゴが織りなす絶景を味わおう。
いつもの相棒とも言えるドライバー、サンティーが空港で待っていてくれた。
「オツカレサマ」と笑顔でのお迎えだ。彼は現地生まれの現地育ち。数年前に日本人女性と結婚したため、日本語が上手い。空港を出るとバリの中心街はいつものごとく渋滞だったが、それを抜けるとのんびりとした景色が広がる。車は3時間ほどで、リゾートホテルに着いた。
このホテルがダイビングのベースとなる。広大な敷地に何ヶ所もプールがあり、絶景の海を見ながら入れる温泉プールも2つもある。僕は部屋に専用露天風呂とガゼボ(東屋)のついた部屋に泊まることにした。
荷物を降ろし、ダイビングショップに駆け込んだ。さすが高級リゾートホテルだけのことはあって、すぐに所有するプライベート船を出し、インストラクターもマンツーマンで付ける、という。ライセンスカードを見せ、手続きをしていると、茶髪で長髪の日本人女性が現れた。
「はじめましてー。サトミと言います。今日はよろしくお願いします」。
とても瞳の綺麗な女性だった。
ホテルの中にある船着場からダイレクトに船に乗り込んだ。いつもの沖縄での大型クルーザーとは違い、屋根はついているが、5人くらい乗ると一杯の小型船だった。バリ島の中でも最ものんびりした優雅な景色が堪能できる。ダイビングポイントまでは20分くらいのようだ。
「ここに来る日本人はめったにいないんですよ。私がお会いしたのは今月2人目。よくこのホテルをご存知でしたね」。
笑顔がたまらなく爽やかだった。
「知人のダイバーに聞いたんだ。ここに日本人にまだほとんど知られていない絶景のダイビングスポットがあることを」。
「私はずっとオーストラリアでインストラクターをしていて、昨年からここにいるの。ホント最高よ。さぁ、用意して潜りましょ」。
バリ島のマーメイドが先にジャンプインした。
仕事のことを忘れるのはダイビングをしている時ぐらいだろうか? なーんにも考えずに、海の中の景色を味わっていた。講演の内容は、サンティーが運転する車の中で考えていた。

東京の地価の行方は

日本では政権が変わり約10ヶ月が過ぎた。新政権は矢継ぎ早に経済成長政策を打ち出した。その効果はまず金融市場に表れ、そして都市部の不動産市場にも見られるようになった。
さらに、9月7日(日本時間では8日早朝)には、2020年に東京オリンピックの開催も決定した。
不動産価格の目安となる「2013年基準地価」が9月18日に発表された。これは、国土交通省がその年の7月時点の地価を発表するもので、取引の目安となっているものだが、これによると、5年ぶりに東京、大阪、名古屋の3大都市圏は地価上昇という数字が出た。しかし、一方で地方都市の多くの地点では依然値下がりは止まらず、地価下落が続いている。三大都市と地方主要都市を除く地方都市の地価上昇は今後もないだろう。その代り、東京の地価上昇はしばらく続くだろう。「今はかなり高くなっているから、しばらく待った方がいいだろう」というアナリストもいるが、しばらく待っているとさらに上昇している可能性が高いと思われる。「買うなら、今だ!」というメッセージを伝えよう。

星空と温泉と、そして……

一面に広がるサンゴの絶景を味わった3本のダイビングを終え、夕方にはホテルに戻ってきた。
僕は、軽く夕飯をとった後、満天の星空を眺めながら、海辺にある大きな温泉に浸かっていた。辺りは足元だけ灯がともされている。そして温泉の中にも小さな光がある。誰もいないこの場所で、南十字星と、はっきり流れが見える天の川を見ていた。
すると、そこに水着を着た女性がやってきた。「あっ」と小さな声をだしてしまった。サトミだった。
「私、この場所大好きなの。晴れている日は毎日ここで夜の時間を過ごすの。日本では絶対味わえない、星空よね」。
「ここには一人でいるんだよね。寂しくないの?」と、日本人が誰もいない上に、都会から隔離された生活はどんなものか聞いてみた。
「うん、それは、ときどきは寂しくなる時もあるわ。でも、ここでの暮らしは悪くないよ」。
薄明かりに映る彼女は昼間よりもずいぶん魅力的に見えた。
「それよりも、こんなオシャレなリゾートホテルに一人でお泊り? 寂しくないの? ここはASEAN各国ではハネムーンに行きたいホテルとして有名よ。一人での宿泊なんて、年に一人くらいじゃない?」 「仕事のついでに、ちょっと足を延ばしてね。でも、こうして素敵な出会いがあったから、今日は寂しくないよ」と空を見ながら言った。
「それって、誘ってるの?」 彼女も空を見上げていった。明かりに照らされている髪が綺麗だった。
「僕の部屋見に来る? 庭にあるガゼボでのんびりしながら、続きを話そうよ」。
彼女は小さくうなずいた。

この素敵なリゾートホテルはどこか?
それは、ここでは書かないでおこう。