THE AUCTION HOUSE 華やかなるオークションの世界へ

1766年にロンドンで設立され、今や世界最大の売上高を誇るオークション会社「クリスティーズ」。現在は世界43ヶ国で展開され、まさに世界のアート・マーケットをリードしている会社だ。昨年11月9日、ロックフェラーセンターはある種の熱気と緊張に包まれていた。そこでは前代未聞の規模となる一大オークションが開催されていた。THE VISIONARY(先見者)と名付けられたそのコレクションの主はマイクロソフトの共同創設者である「ポール・G・アレン」(2018年没)。今回はその詳細とともに、オークションの世界への参加方法をご紹介したいと思う。

協力/クリスティーズジャパン

© Christie’s Images Limited 2022

VISIONARY:THE PAULG.ALLEN COLLECTION
世界中のアートコレクターが注目する
155点もの名画




①会場となったロックフェラーセンターには歴史的な作品を一目見ようと、多くの人が長蛇の列を作っていた。②開始とともに熱気を帯びるオークション会場。美術史に残る一大オークションがスタートした。③クリスティーズのライブオークションはネット中継され、世界中のアートコレクターがアクセス可能になっている。

二度と市場には出ないと言われた名画が続々とオークションに

マイクロソフトの共同創業者であり、慈善活動家でもあったポール・G・アレン氏。2018年の65歳の時にがんで亡くなってしまうのだが、大富豪であった彼は世界有数のアートコレクターでもあった。彼の遺言により、遺産管理人となるポール・G・アレン財団は彼の所有した、この500年に渡る美術史の中の名作155点あまりをこのオークションにかけ、その収益を全て慈善団体に寄付することになったのである。その総額はオークション開始前の時点で10億ドルを超えると言われ、近代美術史における名画が数多く含まれていた。オークション会場はクリスティーズニューヨークのあるロックフェラーセンター。世界中の名だたる美術蒐集家がネット回線や電話でオークションに参加。初日の第一部(イブニングセール)の落札金額総額はすでに15億600万ドル(約2200億円)に到達。ジョルジュ・スーラの点描画は1億5000万ドル(218億円)の高額で落札されることになる。他にもセザンヌ、ゴーギャン、クリムトなど二度と市場には出ないと言われた名画の数々がオークションに登場した。

Profile

ポール・G・アレン(中央パネル)

慈善活動家(1953–2018)1975年にマイクロソフトを共同設立。1986年には最初の慈善財団を設立する。2000年ポップカルチャー博物館(MoPOP)を創設、2003年のアレン研究所の設立では脳科学、細胞化学、免疫学の分野で画期的な科学的進歩をもたらす。数十年に渡る熱心な美術品コレクターであったアレン氏は、1990年代後半から世界中の美術館に匿名で何十点もの作品を貸し出し、自身のコレクションを公に公開するようになる。彼の慈善活動は生涯で26億5千万ドルを超え、美術界にも大きな影響を与えている。

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Visionary:The Paul G.Allen Collection

11月9日の第1部である「Visionary:The Paul G.Allen Collection,Part I」イブニングセールでは60点の作品が全て落札され、15億638万6000ドル(約2200億円)の売上高を記録。個人オークションでは史上最高額にその中で1億ドルを以上の価格を付ける作品も登場した。美術史に大きな足跡を残す一大オークションとなったのである。

  • 1.GEORGES SEURAT(1859-1891)
    Les Poseuses, Ensemble (Petite version)oil on canvas 39.3×50cm Painted in 1888
    USD 149,240,000
  • 2.PAUL CEZANNE (1839-1906)
    La Montagne Sainte-Victoire
    oil on canvas 65.1×81cm Painted in 1888-1890
    USD 137,790,000
  • 3.VINCENT VAN GOGH (1853-1890)
    Verger avec cyprès
    oil on canvas 65.2×80.2cm Painted in Arles in April 1888
    USD 117,180,000
  • 4.PAUL GAUGUIN(1848-1903)
    Maternité II oil on burlap 94.7×61cm Painted in Tahiti in 1899
    USD 105,730,000

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INVITATION TO AUCTION
オークションに参加する方法

クリスティーズでは現在、年間約350回ものオークションを開催、2017年には個人所有の「レオナルド・ダヴィンチ」の作品としては、最後の作品となったイエス・キリストの肖像画「サルバトール・ムンディ」が世界最高記録となる約508億円で落札されている。この「VISIONARY」でのオークションの売上額も個人のコレクションとしては過去最高額の2200億円を超えることになった。実際のオークションで扱う作品や分野は多岐にわたり、価格幅も200ドル~1億ドルと幅広く、実は参加のハードルは思ったよりも低い。








①ジョルジュ・スーラの点描画は、同セールの最高額である1億4924万ドル(約218億円)で落札された。②美術史上に残るオークションとなった今回の「VISIONARY」。電話を受ける代理人とオークショニアとのやりとりが激しく行われる。③「VISIONARY」の開催に先んじて作品の状態を実際に確かめることのできる「下見会」が行われ、多くのアートコレクターが集まっていた。④最高額で落札されたスーラの点描画の前に集まるコレクター達。実際の作品を自分の目で確かめられることもあって下見会は重要だ。⑤「VISIONARY」の下見会には彫刻も出展されていた。通常の美術展とは異なり、撮影が許可されていた。

意外なほど簡単であったオークションへの参加方法

どのオークション会社においてもオークションへの参加条件は大きくは違わないが、クリスティーズの場合、まずは会員登録が必要となる。必要書類は本人確認のための顔写真付きの身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど)。最初に参加する場合は銀行照会(資金力の確認のために預金残高がわかるものを提出することになる。)も必要だ。
また、オークションの開催前に、下見会が開催される場合には、会場に足を運び、実際の作品を見ておくことをお勧めする。現地でオークションに参加する場合には、本人確認とは別に事前登録を済ませる必要がある。
実際のオークションでは会場でパドル(番号札)を受け取り、着席する。オークション開始後は、オークションの進行状況を確認しながら入札する場合は、その次の上り幅に該当する金額にパドルをあげるだけだ。現在、クリスティーズのライブオークションはネット中継されており、世界中のどこからでもオンラインで参加できるようになっている。この他、電話によるオークションへ参加する方法や、事前に書面で入札する方法なども用意されている。 
落札した後は、落札金額に加えて、買い手手数料、送料、輸送保険、アーティストリセールライト(欧州のセールで該当する場合)、またその合計金額に対して、約10%の輸入消費税がかかることを知っておかなければならない。
なお、いったん落札すると、キャンセルすることはできないので、あらかじめ、必要経費を含め、十分に把握しておくことを忘れないようにしておきたい。

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クリスティーズジャパン 代表取締役社長 山口 桂
オンラインシステムが変える
オークションの世界

近年、愛好家としてアートを収集する人だけでなく、投資の対象として人気作品を求める人が増え、結果的にアートマーケットは急激に拡大している。またコロナ禍によってネットオークションの環境が整った結果、これまでにはなかった若年層の参加も目覚ましい。そんな中で「オークションに初めて参加する人へ」心がまえなどをクリスティーズジャパン代表の山口さんからお話をいただいた。



①クリスティーズジャパン(東京)で開催されるオークションの下見会。現在は招待制となっている。②香港で行われたオークションの下見会。海外の下見会は一般公開されており、誰でも見られるようになっている。

「本当に自分の好きな物」を手に入れるためには 

「私たちのオークションのマーケットも2020年の上半期、30%くらいの市場に落ち込みましたが、そこからオンラインシステムを大きく変更したことで秋には回復、2021年はすでにコロナ以前より市場が伸び、若い人も多く参加するようになりました。特に現代美術は劣化が少なく、状態の確認が必要ないためネットでの売買に適しています。また時計・宝石・ワインなどもネットオークションとの相性がいいですね。アドバイスとしては自分の本当に好きなものを買って欲しい、そのためには多くの作品を見ることです。海外での下見会は基本的に無料で誰でも参加可能です(招待制もあり)。オンラインでも今は拡大や3D、動画などで閲覧できます。オークションに参加する前に必ず自分の予算の上限を決めておくこと、あとは購入前に作品のサイズ感や送料・手数料・税金も確認しておきましょう。購入後に大きすぎて部屋に入らない、エレベーターに乗らないというトラブルもあります。オークション作品は開催が近づけば、ネット上で閲覧できるものも多くなりますので、そこでじっくりと選んでいただければと思います」。

LIVE AUCTION SCHEDULE

3月8日 10AM(EST) New York
Contemporary Edition

3月のコンテンポラリー・エディションセールでは、デビッド・ホックニー、アンディ・ウォーホル、キース・ヘリングなど著名なアーティストによる150を超える作品が登場。KAWS、インベーダー、草間彌生らの若者にも人気の現代作品も予定されていて、見積もりは1,000ドル未満からと参加しやすい。初心者向けのアート作品から熟練した愛好家向けまで幅広い趣向の作品が用意される。

3月21日 6PM(GMT) London
Modern British and Irish Art Evening Sale

モダンブリティッシュ&アイリッシュアートイブニングセールでは20世紀と21世紀をリードするイギリスとアイルランドのアーティストらの作品が出展される。LS Lowry、William Scott、Frank Bowling、Barbara Hepworth、Henry Moore、Barry Flanaganらによるダイナミックな彫刻作品やDavid Hockneyの素晴らしい作品群と、Pauline Botyによるポップアートなども展示される。

※2月28日~3月2日Londonでは、年に二度行われている20・21世紀美術のセールが複数開催され、Evening Saleでは、ピカソを始め巨匠の作品が揃い、Day Saleでは、お求めやすい価格帯の作品も多数出品される。

詳細はhttps://www.christies.com/