神秘の大地と遺産を巡る – マハラジャ・エクスプレス

マハラジャ・エクスプレス

 東にベンガル湾、南はインド洋、西をアラビア海に接し、北には世界最高峰ヒマラヤ山脈を望む広大な国インド。その地形や自然・風土はさまざまで、息づく文化や言語、宗教も多種多様。州境を越えればまったく異なる文化圏が形成されている。神聖なるガンジス河や白亜の霊廟タージ・マハールなど、人生観を変えてしまうほどの刺激と魅力を秘めたインドを、富豪“マハラジャ”の名を冠する宮殿列車で巡る。

マハラジャたちが夢見たインド横断の旅

マハラジャ・エクスプレス
プレジデンシャル・スイート
マハラジャ・トレインの経路は今回乗車した「デリー~コルカタ」のほかに「デリー~ムンバイ」もあり、2経路4コースで運行。すべてのキャビンにパノラマウィンドウが採用され、移り行く壮大な景色を楽しませてくれる。最高ランクの「プレジデンシャル・スイート」は、ひとつの部屋で1両すべてを使っている贅を極めた空間。

 2010年、デリーからアグラ、カジュラホ、ヴァラナシ、ガヤなどを経由し、コルカタを終点とする豪華列車『マハラジャ・エクスプレス』が開通した。これまでにも高級列車は存在したが、それは各州内を巡るだけのもので、広大なインドの魅力のほんの一部を垣間見るに過ぎなかった。またバスや車を使うと移動に時間がかかりすぎ、限られたヴァカンスのなかではひとつかふたつの州を巡るのがやっとだ。

 マハラジャ・エクスプレスの開通は、そんなインドの旅を大きく変えることになる。まるで宮殿に暮らしながら旅をするように、優雅で快適な空間ごと目的地まで運んでくれるのだ。

 客室はデラックスキャビンが5両、ジュニア・スイートが6 両、スイートが2両、プレジデンシャル・スイートが1両で総客数84名。さらにレストラン車両2両、展望室、バー車両が各2両あり、総車両数24というスケールだ。

 エレガントな調度品が誂えられた客室は広々とした間取り。全室にテレビやDVD、インターネット、電話が敷かれ、スイートルームにはゆったりとしたバスタブまで完備されている。もちろんキャビンアテンダントの行き届いたサービスや食事の美味しさも申し分ない。車窓を流れるのは、かつての高級列車からは一挙に見ることのできなかったインドの街々や大自然のめくるめく景色。

 昼間はゆっくりと観光を楽しみ、夜は豪華な客室で寛ぐ。そして快適に目覚めた朝、窓の外に広がる景色は次の目的地││。かつてインドに君臨したマハラジャ(藩王)たちが想い描いたラグジュアリー・トレインでの旅が、いま現実のものとなった。

愛妃に捧げた白亜の霊廟タージ・マハール

タージ・マハール
タージ・マハールの敷地の広さは約17ヘクタールに及ぶ。四分庭園の池に姿を映す廟は典雅を極める。

 デリーから南東へ約200㎞。レストラン車両で日本食の朝食をいただき、窓の外の景色を眺めていると、列車はアグラに到着。ここでの一番の見どころは、ムガル建築の最高傑作と称される世界遺産タージ・マハール。16~17世紀にかけて栄えたムガル帝国の第5代皇帝シャー・ジャハーンが、最愛の妻ムムターズ・マハルの死を哀しみ、1632年から実に22年の歳月をかけて完成させた霊廟である。正確無比なシンメトリーの外観は、350余年の時を経てなお圧倒的な美しさを称えている。

 靴をぬいで中へ入ると、ひんやりとした静謐な空気に包まれた。唐草模様や花のレリーフが刻まれた大理石の壁には碧玉、翡翠、トルコ石、サファイヤなど世界の各地から集められた貴石がちりばめられ、静かな輝きを放つ。最愛の妻の記憶を永遠に刻み込むようにして建てられた典雅なタージ・マハールは、皇帝の妃への深い愛情を物語る壮麗な廟であった。

アグラでの昼食アグラでの昼食アグラでの昼食
アグラでの昼食は、タージ・マハールを望む絶好のロケーションに建つホテル タージ・ケーマでシャンパン・ランチをいただく。民族楽器が奏でる音楽に耳を澄まし、本場のインド料理に舌鼓みを打つ。

信仰と生と死が交差する聖なる河ガンジス

 この旅の出発地デリーと終着地コルカタのほぼ中間に位置するヴァラナシ。ガンジスの川沿いにあるこの地は、インドの交通の要衝であると同時に、ヒンドゥー教徒が死ぬまでに一度は訪れたいと願う最大の聖地でもある。ガンジスの川沿いにはほかにも聖地と呼ばれる地がいくつか存在するが、ヴァラナシを流れるガンジス河が最も神聖とされている。

 リキシャに乗って街を抜けると、突然雄大なガンジスが目前に現れた。川辺には、沐浴で罪を洗い流し、身を清めようという人々が大勢集まっている。色とりどりのサリーを纏い、川に身を沈めて太陽に祈りを捧げる姿が水面に神秘的に映る。

 日が暮れると、川岸からカンカンカンと鐘が鳴り響き、風に乗って祈祷が流れてきた。火葬が始まったのだ。ヒンドゥー教では、亡くなった人をガンジスの川岸で火葬にし、遺灰を川に流すことは死者への最高の敬意である。死者の魂は人々の祈りとガンジスの流れとともに天へ昇っていくのだろう。幻想的な火葬の様子を眺めていると、次第に鐘の音が遠く心地よく聞こえ、さまざまな思いが浮かんでは消えてゆく。燃え盛る炎をじっと見守る観光客、そしてそこに住まう人々。インドを訪れると人生観が変わると言われる所以がここにあった。

死者を弔うためのろうそくガンジス河の火葬
/夕暮れとともにはじまるガンジス河の火葬。舟に揺られて眺めていると、次第に現実と幻想の世界の境界があやふやになっていくような気分になる。
/少女が火を灯しているのは、死者を弔うためのろうそく。日本の灯篭流しのように川に流す。

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