バリの新しいリゾートへ

“神々の楽園”と呼ばれて久しいバリ。
海にも山にも恵まれた神秘的な島は、熱帯の樹々が繁り、鳥や花々などの小さな命にあふれる。
その光に満ちた無垢な生命たちの姿に心を打たれない人はいない――。
本当の自分の姿を求めて、新しいバリのリゾートへ。
取材・文: 朝岡久美子 写真: 岩本真(星のやバリ)

バリの新しいリゾートへ

朝陽を浴びるプールの水面が神々しい情景を描きだす。『星のやバリ』のシンボリックな光景だ。

~ 聖なる川のほとりの集落へ~ 星のやバリ

神々の棲まうという聖なる地、ウブド。
この名高いリゾート地にまた一つユニークな宿が出現した。
知られざる秘境の大自然に宿る神聖な空気と心尽くしのもてなしは、本物の贅沢を感じさせてくれる。
滞在中、きっといつものあなたとは違う姿に出会えるに違いない――。

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バリの伝統的村落共同体の光景にインスパイアされた『星のやバリ』の景観。たった30棟のヴィラからなる小さな集落。スケールメリットを生かしたリゾートとは一味違う人間的な規模もまた魅力だ。

 バリ島の東部に位置するウブド。かつて王族によって支配された由緒ある土地は、早くからバリの最も有名なリゾート地の一つとして世界中に知られた。海に囲まれたバリにあって手つかずの自然に恵まれた山側の景観はこの島のもう一つの魅力だ。
 旧王宮のあるウブドの市内から東側へ車で約30分。ぺジェン村という川沿いの小さな村落に今年1月、また一つバリリゾートの新しい顔が誕生した。
 『星のやバリ』―― 日本各地の知られざる土地の魅力を訪れる人々の五感の中にユニークなかたちで呼び覚まし、夢を与え続けるあの『星のや』だ。「星のや」ブランドの初の海外進出は事前にも大きな話題をさらったが、ついに今年1月、歴史あるウブドの秘境の地にその姿を現した。
 山から湧き出る川と渓谷を囲むように聳え立つ未開の崖地を切り開き、一から開発されたという敷地は、背景のジャングルと完全に一体化し、またとない絶景を描く。下に流れるプクリサン川は魂の浄化を大切にするバリヒンズー教徒の人々にとって聖なる水を湛える。
 亜熱帯の夜に降りそそぐ恵みの雨が朝の目覚めとともに神々しい光を大自然の懐に宿らせる。多神教のバリヒンズーにあって神々たちの棲むという未開の樹々の茂みから醸しだされる神聖な空気が時に光を覆い、白い霧を漂わせる。それはパワースポットや神々の存在に興味のない人でも興奮せずにはいられない不思議な力に満ちた光景だ。
 光を受けたみずみずしい輝きは、この地に新しく誕生した一つの小さな集落の姿を生き生きと描きだす。そう、『星のやバリ』の描きだす景観は、稲作とともに生きるバリの人々の生活にかかせない用水路を中心とした昔ながらのコミュニティのかたちだ。
 『星のやバリ』が映しだそうとした一つの世界――。それは、このバリという地において特別な意味があるのだという。バリの人々は古来、“神と人”“人と人”“人と自然”という三つの調和を大切にする独自の世界観を持つ。それはライフステージにおいても、日々の生活のそれぞれのシーンにおいても、そして家を建てるにおいてもつねにあるべき真理なのだという。
 ただし、そこはリゾートの達人たちの考えだすこと。高度な技(!)を駆使して大人のリゾートらしいプライベート感も程よく保ち、“人と人”とをつなぐ水の流れはスタイリッシュで都会的センスあふれるユニークなプールとして再現されている。神聖な想いとともに『星のや』らしい愉悦を覚えること間違いなしだ。

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ヴィラ・ジャラク(鳥)。灌漑用水を模した運河のようなプールの水辺沿いに独立したヴィラが軒を連ねる。

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右/ヴィラ・ブラン(月)。壁面の装飾は地域伝統の技、ウッドカーヴィング(木彫り)による。職人たちの魂が吹き込まれた渾身の作品が空間を彩る。
左/カフェ・ガゼボ。まるでツリーハウスにいるかのような感覚でカフェや軽食、昼寝も!

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この宿のもう一つの魅力は何といっても食だ。コンテンポラリーなバリニーズをじっくり堪能できる。インドネシア料理の真髄と和食やフレンチのエッセンスを絶妙に交えた皿からなるコース仕立てのディナー。その斬新な素材のカップリングに一皿ごとに驚きの連続だ。

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(写真右から反時計周りに)フォアグラの田楽仕立て/マグロのたたきサンバル(辛味調味料)の香りとともに。/インドネシア風の定番朝食、粥。朝からワクワクさせてくれる。

 バリの人々はどの空間に入るにも聖なる花々で作った小さな花輪を神々に捧げ、祈る。そんな人々の心を慈しむかのように、一つひとつの客室ヴィラもまた浄化された空間のように心のこもった優しい心遣いが随所になされている。細部の装飾、バス・水回り、照明設計の一つひとつに至るまで訪れる人々への心尽くしの気遣いが感じられる。
 たおやかで優しい空気が流れるヴィラ。ここもまた戸外に流れる優しい風を時のうつろいとともに感じられるように工夫されている。そう、まるで自然の流れとともに和やかに生きるバリの人々の優しい微笑みと物腰のように柔らかい風を――。
 そういえばスタッフはほとんどバリ出身の若者ばかりだ。彼らはすっかり日本型旅館のもてなしをマスターしていた。スケールメリットを生かしたリゾートとはまた一味違う人間的で密やかな集落での対話のひととき。すっかり仲良くなり、名前で呼び合う彼らからは体験型のさまざまなアクティビティを通してバリの日々の文化的儀式や音楽、食文化などを教えてもらった。こちらも自ずと敬意を持ってその熱意に応酬する。若く情熱にあふれる彼らの思いに癒される。
 “人々とのふれあい”、“訪れた地と文化への敬意”、そして“その地の空気に心から浸る”―― そんな本物の旅の贅沢を『星のやバリ』はもう一度教えてくれたような気がする。
 本物の価値を求めるプロ集団の進化はますます続く――。

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今後さらにホリスティック滞在プログラムも充実させていきたいという『星のやバリ』。ヨガやスパプログラムなども魅力的だ。自然とのふれあいの中でのセッションや施術は、ここでしか体験できない。

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スパでは『星のや』オリジナルの“バリニーズ・マッサージ”や“ロイヤル ルルール”をお薦めしたい。王族伝統のレシピで作られる贅沢なトリートメントで、艶やかな肌と華やかに匂いたつ美しさを。

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左/スタッフの女性からバリヒンズーの神聖な捧げもの、“チャナン”の作り方を教わる。聖なる花々を慈しむバリの人々の心が表されている。
右/スパで用いられる米粉やハーブ、スパイス、花などのバリのエッセンスをベースにしたスクラブやオイル。

Information

星のやバリ
Br. Pengembungan, Desa Pejeng Kangin Kecamatan Tampaksiring, Gianyar 80552 Bali, Indonesia
宿泊予約:TEL 0570-073-066(9:00〜20:00)
http://hoshinoya.com/

喜びと感動を包み込む楽園の輝き ザ・リッツ・カールトンバリ

バリ島のもう一つの魅力は何といっても海だ。
バリの優しい風にのって紺碧の空に水面がしぶきをあげる。
そこは神々の愛する楽園の世界。
さあ、青の情景に包まれた白い砂のビーチへ――。

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壮大なインド洋の眺めを生かした絵画的なランドスケープ。

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ヴィラタイプのゲストルームが点在する広大な敷地の中央を通るエキゾチックな小道。朝からウォーキングやジョギングを楽しむゲストたちも。

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オーシャンフロントヴィラのベッドルーム。お気に入りのベッドがあったら購入可能というのも面白い。

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プールパヴィリオン。110㎡と程よい広さのプール付きヴィラ。リビングスペースも広くカップルに人気だ。

 やはり、バリ島でバカンスとなれば、ぜひビーチリゾートも訪れたい。
 海側のリゾートは概ね島の南側に位置する。日本でもよく知られるジンバランやクタ、そしてここ数年新しいリゾートが次々と誕生しているヌサドゥアなどが有名だ。
 このヌサドゥアの海沿いに2015年オープンした『ザ・リッツ・カールトンバリ』は、そのスケールメリットと洗練であまたの高級リゾートのトップをひた走る。
 約12万㎡の広大な敷地に11タイプ313室のゲストルームと、6つのレストランやスパ、インフィニティプールを有する。このリゾートもまた崖を切り崩して土地を一から開発し、一本一本丁寧に植林をしたという。空港から車でたった20~30分の距離に位置するが、崖の高低差を巧みに利用した壮大なランドスケープは、まるで一つのテーマパークのようだ。
 『リッツ・カールトン』と言えば、日本の企業でも多々採用されているというかの有名な“リッツ・カールトン憲章”を掲げるだけに、そのホスピタリティのレベルの高さは業界でもお墨付きだ。しかし、『ザ・リッツ・カールトンバリ』は、さらにそのスタンダードを超えた良い意味での“ローカライズ(地方色化)”ともいうべき、バリニーズ・スタイルのおもてなしが華を添える。
 そんなソフトパワーの魅力もさることながら、『ザ・リッツ・カールトンバリ』の醍醐味は何といってもそのスケールメリットとラグジュアリー感。そしてグラマラスな魅力だ。
 まず、バックドロップ(背景)を織りなすインド洋の雄大な姿。青空に紺碧の水面がしぶきをあげて自然のハーモニーを奏でる。青の情景に包まれた白い砂のビーチ。マリンブルーと輝く白の軽やかな色合いが絵画的にデザインされたインフィニティプールでカッコよく泳ぐゲストたちをよりいっそう鮮やかに映し出す。まるで背景をともなった舞台のようにゲストたちの生き生きとした姿が美しく切り取られる。

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一番人気のある寿司レストラン「Raku」。グラマラスな食空間が高揚感を誘う。

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(写真左上から時計周りに)「The Beach Grill Restaurant」で供されるマグロのセビーチェ。/インドネシア料理「Bejana」の海鮮とココナッツのスパイススープ。どれも新鮮な魚を存分に堪能できるのが魅力だ。/アクティビティの「Market to Table(クッキングクラス)」でシェフとともに作った郷土料理の数々。

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「The Beach Grill Restaurant」で供されるエビのパスタ。

 食の魅力もまたダイナミック。最も人気があるのが寿司レストランの「Raku」というのも嬉しい。近海で獲れる新鮮な魚をふんだんに生かした寿司のオーセンティックな洗練と確かな味わいに日本人でも高揚せずにはいられない。
 カジュアルながらも新鮮な魚介や肉のグリルで人気の高い「The BeachGrill Restaurant」、小粋な地中海料理が堪能できる「Breezes Tapas Lounge」と海辺の一夜をグラマラスに過ごせる食空間がその日の気分によって選べるのも嬉しい。そして、もちろんインドネシア料理「Bejana」。都会的センスのある空間でバリの人々のあたたかみがいっぱいにつまった郷土料理やシグニチャー料理を味わえる。
 ユニークなアクティビティを楽しめるのも嬉しい。シェフとともに地元の市場に行って買い出しをし、バリ料理の極意を教わる「Market toTable(クッキングクラス)」は男女ともにエキサイティングすること間違いなしだ。
 中でも海に向かって行う「魂の浄化リチュアル」と「ウミガメ放流体験」は忘れられない想い出になるに違いない。多神教のバリヒンズー教の人々は、自然の中にある万物の神々とすべての生命の源である海に向かって祈り、自らの魂を浄化し、生まれ変わりの力を得る。朝陽に照らされた早朝のビーチで行われる儀式は、波の音と美しい花の捧げものに彩られ、感動的ですらある。
 そしてウミガメの赤ちゃんたち――。前の晩にプライベートビーチで新しく芽生えたかけがえのない生命を里親になった気持ちで名付け、海へと旅立たせる。小さな命の過酷な人生の始まりに立ち会うのは少し悲しくもあり、またその生命力の力強さに勇気づけられもする。
 これらの二つの貴重な体験――海もまた、川の流れや樹々の茂みのようにバリの人々にとって命あるものと神々をつなぐ大切な結界の役割を果たすものなのだと感じさせられるひとときだった。
 さまざまな人々の喜びと感動を包み込む楽園の輝き。青い海の奏でるハーモニーは、今日もゲストたちの明るい歓声に呼応するかのように変わらぬ姿で高らかに謳いあげる。

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左/神々への捧げもの、チャナン。右/「ウミガメ放流体験」も忘れられない想い出になるに違いない。
*ウミガメの放流体験は例年6月~10月頃まで。

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早朝にビーチで行われる「魂の浄化リチュアル」。バリの人々がライフステージの転換期ごとに受けるという厳かで貴重な儀式を体験できる。

Information

ザ・リッツ・カールトン バリ
Jalan Raya Nusa Dua Selatan Lot III Sawangan, Nusa Dua Bali, 80363 Indonesia
TEL +62 361 8498988
http://www.ritzcarlton.com/jp/hotels/indonesia/bali