日本再発見の魅力 九州の名湯に憩う

日本各地に温泉宿を展開し、心地よい癒しを与え続けている温泉旅館ブランド「界」。日本旅の魅力再発見の機会を与えてくれるのもまた、この宿ならではだ。九州の東西三地域の名湯にたたずむ三つの宿をご紹介しよう。

取材・文:朝岡久美子


敷地内の棚田が「界 由布院」の主役だ。四季折々の表情を描きだす。

棚田の四季に憩う
界 由布院

九州のみならず、日本の名湯の一つとしても知られる由布院。
ついに、2022年の夏、この日本屈指の温泉地の風光明媚な高台に「界 由布院」が開業した。

棚田を一望する“棚田テラス”。棚田に沈みゆく夕陽を眺める最高のロケーションだ。

最盛期の棚田の様子。スタッフと地元の米農家が協働で日々、大切に稲を育てている。

レセプション・フロント。“上質な農家の奥座敷”という空間コンセプトから、フロントのつくりは土間にある台所の窯をイメージしている。

「もう一つの由布院」を求めて

日本の名湯の一つとして古くから知られる由布院。避暑地としても名高く、街の中心地自体が標高約450メートルの高さに位置する。「界 由布院」がたたずむ場所はさらに小高い丘陵地にあり、周囲は静寂に満ちた別荘地帯が広がっていた。いわゆる観光名所と呼ばれる街の賑わいからは少し離れており、盆地状に広がる由布院の街の情景を敷地内から俯瞰するかたちで一望できるのもこの宿らしさだ。
「界 由布院」が目指すのは、まさに「もう一つの由布院」だ。温泉街らしさの賑わいに身を置くのではなく敷地内にたたずむ棚田と、そのやさしい情景を見守る由布岳の美しい姿が織りなす趣きある農家風のたたずまいに憩う喜びを存分に味わせてくれるのだ。

棚田を中心とした美しき営み

 「界 由布院」の設計・建築を手がけたのは隈研吾氏。もともと敷地内にあった休耕地の棚田を活かしてゼロから手掛けられたものだ。隈氏自身、由布院の原風景ともいえる棚田の光景に心から惚れ込み、おのずと棚田を宿の営みの中心に置いて空間設計が描きだされたという。「自然の最も純粋な姿を湛え、日本の四季折々の繊細な情景をつぶさに映しだす棚田の情景は、作り込んだ日本庭園よりもはるかに尊いものである」という強い思いが隈氏の中にあるのだという。 離れタイプの平屋建て5棟を含む全45室の客室、そして、レセプションや食事処が位置するパブリック棟など、どの位置からも棚田の存在を中心軸に感じられるようにパノラミックに設計されており、その建築・空間コンセプトは「別府温泉の奥座敷」とも称えられた由布院らしさを象徴する“上質な農家の奥座敷”がイメージされている。
この宿を体感して最も印象的だったのは、日田杉や大分名産の竹、稲や藁、そして米粒までもが内装やディテールにユニークに用いられており、視覚で感じる以上に五感でその自然の潤いを身近に感じられることだ。アルカリ性単純泉の柔らかく、肌をやさしく包み込むような感触とあいまって心の芯から癒されるのを感じることだろう。


(1)


  • (3)

    (4)

  • (2)

(1)棚田離れ(露天風呂付き)。棚田の中にたたずむ二棟のみの離れタイプの客室。目の前に広がる棚田の時の流れとともに変わりゆく景色を眺めながらゆったりと寛げる。(2)昔懐かしい縁側でゆっくりするのも悪くない。(3)露天風呂。(4)ヘッドボードにも大分特産の竹がふんだんに用いられている。

滋味深い野山の恵みとともに

もちろん、食の楽しみもこの地ならではの滋味深い味わいに満ちている。特に猪・穴熊・鹿などの良質の肉をそれぞれ4種の異なるたれで味わう特別会席「山のももんじ鍋」は、この地でしか巡り合えない希少なジビエのみならず、木の実やカボス、早刈りの玄米を焙煎した焼き米(やっこめ)など、ご当地の野山の恵みと芳しい味わいをじっくり堪能する愉悦のひとときだ。近隣の海沿いの都市、臼杵から届けられる新鮮な河豚の歯ざわりも忘れがたい。
空間を彩る幻想的なランプシェードのほのかな陰翳や民窯の焼き物の素朴な美しさ一つひとつにも心を震わさずにはいられないほどに感性を研ぎ澄ませてくれる美しき原風景に彩られた極上宿―――ぜひ、「もう一つの由布院」を再発見してみてはいかがだろうか。


(1)


  • (2)

  • (3)

  • (4)

(1)特別会席「山のももんじ鍋」では、この地ならではの稀少なジビエを存分に堪能できる。(2)先付“猪と椎茸の最中パテ”。猪肉をリエット風にしたものを最中で。地のワインにも焼酎にも合う極上の一品。(3)蛍かごから着想を得た照明。大分県国東半島でしか生息していない七しちとうい島藺が用いられている。(4)ご当地楽“わら綯ない”体験で作成する魔除けのお守り。“綯なう”とは藁をより合わせること。縄は手を合わせてできることから“祈りのかたち”をも意味すると言われている。

由布院は湯量と源泉数で別府に次ぐ日本第二位を誇る温泉地だ。雄大な由布岳を望むスタイリッシュな露天風呂でアルカリ性単純泉の柔らかな泉質の湯浴みを楽しみたい。

Information

界 由布院

大分県由布市湯布院町川上398
ご予約・お問い合わせ:Tel. 050-3134-8092 (9:30〜18:00)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiyufuin/

温泉街の賑わいに遊ぶ愉楽の宿
界 別府

言わずと知れた日本一の名湯、別府温泉。市内には八湯の温泉郷があり、七種の泉質の湯を堪能できるとあって、今なお湯治に訪れる人々は後を絶たない。「界 別府」はこの別府市内の海を一望する歴史的な温泉街の一角にある。


ご当地部屋「柿渋の間」特別室。海面の色彩を引き立てるよう室内の壁には古代色“柿渋色”が用いられている。


寝室にはヘッドボードの“豊後絞り”染めなどによる伝統工芸の美が散りばめられている。

隈研吾氏の遊び心が投影された愉楽の宿

別府湾を一望する北浜エリア。「界 別府」は海岸のプロムナード沿いにたたずむ。上階の客室からはまるで海上にたたずんでいるかのような錯覚を起こさせるほどの臨場感あふれる青の情景が広がる。宿に隣接して、ヨットハーバーもあり、一見、歴史ある温泉街の真っただ中とは思えないほどの風光明媚な一角だ。
しかし、ここは明治期に“不夜城”と謳われたかの有名な北浜旅館街。海側と正反対の山側を見渡せば、ダイナミックな山の稜線をバックに昭和の風情を感じさせるレトロな、しかし活気に満ちた温泉の街の光景が広がる。湯を中心に発展してきた街の独特な空気感とともに、温泉だけではないマルチな相貌を描きだすこの街の懐の深さが感じられる情景だ。
「界 別府」の内観・建築を手がけた隈研吾氏もまた、そんなダイナミックな表情を湛える別府の街のドラマティックな魅力に惹かれた一人だ。この宿も「界 由布院」同様に隈氏のコンセプトによるものだが、両施設まったく異なる趣向なのも実に面白い。氏は大胆にも、この宿において、別府温泉街のドラマティックな日々の営みのかたちを館内に立体的に投影したのだ。

往年の温泉街情緒を思わせる柿渋色の粋な客室

打って変わって、客室はすべて海との一体感を極めた開放感あふれる静謐な空間だ。別府湾に広がる青の情景をより身近に感じられるようワイドな「ピクチャーウィンドウ」が採用されており、奥にたたずむ寝室エリアからはよりいっそう臨場感あふれるパノラマを全身で体感できるようになっている。前方、東側の対岸に大分市内を望み、晴れた日には、遠く四国のシルエットも見渡せる客室からの眺めは日本一の温泉という看板にも負けず劣らずのアイコニックなものだ。空間を満たす柿渋色の風流な色合いが、かつての粋な温泉街の情景をしばし思い起こさせてくれる。
海のパノラマと市中の賑わいを一挙に味わえるドラマティックな温泉宿――ぜひ別府温泉巡りの楽しみの一つに加えてみてはいかがだろうか。


  • (2)

  • (1)


(3)


  • (5)

  • (4)

(1)朝昼晩と異なる表情を見せる別府湾を一望する足湯も最高だ。(2)大浴場の内風呂。源泉かけ流しの「あつ湯」と、温泉成分を身体に浸透させるための「ぬる湯」の二つの湯船がある。(3)大分各地の豊かな食材を存分に味わう「伊勢海老と和牛の特別会席」。台の物“和牛と椎茸のしゃぶしゃぶ”の締めに供される大分名産のかぼすを練り込んだ“かぼす麺”の味わいもまた絶品だ。(4)開放感のあるフロア空間は温泉街に集う人々の交流の場だ。朝から晩まで時の移ろいによって異なる表情を描きだす。(5)むきだしの配管や設備が張り巡らされた遊び心いっぱいのラボ。夜になると一転、ネオン管の赤や白の照明がにぎやかに光り、バーのような空間に変幻する。

Information

界 別府

大分県別府市北浜2-14-29
ご予約・お問い合わせ:Tel. 050-3134-8092(9:30〜18:00)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaibeppu/

荒ぶる雲仙地獄とスタイリッシュな異国情緒を愉しむ
界 雲仙

長崎県雲仙温泉———山を切り拓いた温泉郷に足を踏み入れると、車道や遊歩道の至る所で湯けむりが湧き出ていた。最後にご紹介するのは、名所「雲仙地獄」に隣接してたたずむ「界 雲仙」だ。


温泉街の真っただ中にある「雲仙地獄」。源泉の温度は高いところで75~80度を超すという。

ご当地部屋「和華蘭の間」の露天風呂スペース。夜になると、空間装飾の要であるステンドグラスが天井の照明の色彩に同調し、光彩を放つ。“客室付露天風呂”という表現がふさわしいほど、客室内の露天風呂スペースの存在感が圧倒的だ。

普賢岳の恵み――雲仙地獄

長崎県諫早方面から車で山を上り詰め、ほぼ一時間。標高700メートルの高地に位置する雲仙温泉郷に入った直後、「雲仙地獄」と呼ばれる源泉がひしめく場所ではゴォーっという地鳴りのような音を立て湯けむりが噴き出ていた。普賢岳の恵みによって湧き出でる力強い湯は、アルカリ性単純泉と呼ばれるものだが、強酸性の鉄分を多く含硫黄泉は少し白濁した色味が特徴だ。「界 雲仙」 は、そんな“地獄”の一つである八万地獄の目と鼻の先に位置するという恵まれた環境を誇る。

和・華・蘭の色彩が華やかな館内

雲仙温泉は古く、出島のオランダ商館に駐在する商館医を通して早くから海外に紹介されていた稀有な土地柄だ。異国情緒あふれる歴史を踏まえ、「界 雲仙」もロビーエントランスなどのパブリックエリアをはじめ、湯小屋に至るまで空間の随所に“長崎らしさ”を象徴する和・華・蘭の文化的エッセンスが華やかに彩りを添えているのが印象的だ。
露天風呂付客室ではなく、“客室付露天風呂”という銘打たれた客室のたてつけも興味深い。湯上り処を含め空間の半分以上が露天風呂スペースなのだ。あえてリビングスペースを取り払い、入浴と休息に焦点をあてたレイアウトがユニークだ。
空間をそぞろ歩きしているだけで歴史ロマンに誘われるかのような創造性あふれる美的空間と野趣あふれる地獄めぐりでぜひパワーチャージしてみてはいかがだろうか。


  • (1)

  • (2)

  • (3)

(1)朝の時間帯は朝陽がステンドグラスに降りそそぎ、湯面を美しく輝かせる。(2)客室空間はブルー系統の色調でまとめられている。(3)ビードロから着想を得た異国情緒あふれるシャンデリアが客室内を彩る。




卓袱料理から着想を得た華やかな宝楽盛り(写真上)が彩り豊かな特別会席は、“あご出汁のしゃぶしゃぶ”(写真下)をはじめ、長崎らしい和・華・蘭のエッセンスが散りばめられた異国情緒あふれる贅沢な食のひとときを堪能できる。

Information

界 雲仙 長崎県雲仙市小浜町雲仙321

ご予約・お問い合わせ:Tel. 050-3134-8092(9:30〜18:00)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiunzen/

王道なのに、あたらしい。
星野リゾートによる日本初の温泉旅館ブランド「界」

「界」は星野リゾートが運営する日本初の温泉旅館ブランド。現在、全国22か所に展開しており、今後数年かけて日本有数の温泉地に約30か所展開を目指す。
「王道なのに、あたらしい。」をテーマに心地よい和にこだわった快適な空間で、ホスピタリティ溢れるスタッフが旅の醍醐味である「地域」や「季節」へこだわり、その土地ならではの旅の提案を。「界」を巡ることで、地域の魅力を再発見する。

https://hoshinoresorts.com/ja/brands/kai/