ギリシャ 古代都市アテネから神々の住まうエーゲ海の島々へ

太古の昔。フェニキア人が東地中海の海岸沿いに都市国家をつくり、人々は豊かな暮らしを享受していた。
ある浜辺でのこと。美しい乙女が花を摘んでいた。この乙女の名はエウロペ。フェニキア王アゲノルの娘である。その美しさに心を奪われたギリシャ神話の神ゼウスは、白い牡牛となって娘に近づく。そして、エウロペを乗せ、海へ向かって飛んで行ってしまう。
この時、エウロペの手から落ちたたくさんの花びらは海に散らばり、姿を変え、エーゲ海に浮かぶ島々へとなる。クレタ島に辿り着いたゼウスとエウロペは、ここで交わり子孫をつくる。これがクレタ文明誕生の物語である。
ギリシャ文明は先のクレタ文明が本土へと伝播し、発達したことで誕生した。やがてこの英知は古代ローマを経てヨーロッパ世界の成立へと繋がっていく。「ヨーロッパ」という名称が、美しい乙女「エウロペ」に由来していることも納得である。
神話の舞台でもあるエーゲ海は、どこまでも広がる濃いコバルトブルーの海に個性豊かな島々が点在し、バカンスの地としての魅力に事欠くことはない。今回は、ギリシャ流バカンスを追い求めてサントリーニ島からミコノス島、さらに映画『マンマ・ミーア!』の舞台でもあり、ギリシャ人がいう「最もギリシャらしい景色」が点在するピリオン半島を巡ってきた。

アテネ Athens ~遺跡と神話に彩られた魅惑の古代都市アテネ。~

アテネ Athens ~遺跡と神話に彩られた魅惑の古代都市アテネ。~アテネ Athens ~遺跡と神話に彩られた魅惑の古代都市アテネ。~

青空とコントラストをなすゼウス神殿。オリンピアの神々の父であるゼウスを祀る。

古代アゴラ内にあるアタロスの柱廊博物館。長さ100m以上にわたって柱廊が続く。

紀元前から栄える古代都市アテネ。そのシンボルはなんといってもパルテノン神殿だろう。古代ギリシャ語で「高い丘の上の都市」と呼ばれたアクロポリスの頂きに優美に佇み、世界中から集まる旅人たちを魅了している。
アクロポリス一帯は紀元前13世紀に城塞として建てられ、その後、幾つもの神殿が造られ聖域となる。そして、様々なギリシャ神話の舞台となって語り継がれるようになる。
現在、修復作業中のパルテノン神殿は、1687年にヴェネツィア軍の砲撃により破壊された。大掛かりな修復作業を目の当たりにすると、この巨大な石の神殿が、当時の建築技術や美意識の高さを現代の我々へ語りかけてくるようである。

旧市街の夜

アテネ Athens ~遺跡と神話に彩られた魅惑の古代都市アテネ。~
賑わうプラカ地区旧市街の夜。皆、タベルナのテラス席で思い思いの時を過ごす。

夏のギリシャの太陽光線は鋭く容赦がない。石畳を照り返す光は体からあらゆる水分を奪い去っていくようだ。しかし、アジアのうだるような蒸し暑さとは違い、湿度が低いせいか、カラッとしていて不快感はない。ただ無性に喉が渇く。
昼間、ギリシャの太陽のもと歩くのは観光客だけだ。小高い丘にゴロゴロと遺跡が転がるアゴラ、アクロポリス地区の周りには、まるで迷路のような旧市街のプラカ地区が広がる。そこには個性豊かなカフェやタベルナというギリシャ料理のレストランが集まっている。よく冷えたビールでカラカラの喉を潤すのに最適だ。
地中海性気候のため、夜になると昼の射すような暑さが嘘のように爽やかで心地よくなる。そのためか、陽が暮れると、まるでアテネ中の人たちが押し寄せたのではないかというほど、プラカ地区は活況を呈す。
ギリシャではタベルナやカフェは必ずといってよいほど店内席と同等もしくはそれ以上に店の外にテラス席がある。夜は皆、そのテラス席に陣取り、大人数で色とりどりのギリシャ料理をつまみ、ワイン片手に夜更けまでワイワイと過ごすのがギリシャ式ディナーのようだ。

ピリオン半島 Pilio ~映画『マンマ・ミーア!』の舞台で正しいギリシャ風バカンス体験~

ピリオン半島 Pilioピリオン半島 Pilio

映画『マンマ・ミーア』のロケで使用されたホテルもない小さな島に上陸して、島に一軒のタベルナで食事を楽しむ。 隠れ家ビーチ「Damouhari」。

ホテルもない小さな島に上陸して、島に一軒のタベルナで食事を楽しむ。

ピリオン半島 Pilio
緑豊かなピリオン半島。木陰でのんびりと過ごすのもいい

あるギリシャ人が教えてくれた。「本当のギリシャ人のバカンスを味わいたいならピリオン半島へ行ってみるんだな。ここはギリシャ人が憧れる昔ながらの素朴な島と手つかずの自然が残っている。海外から大挙して旅行者が訪れるサントリーニ島やミコノス島の喧噪は皆無だ」。
アテネから北へ、ギリシャ人憧れのバカンスを求めて、ピリオン半島へ向かった。
周辺は松やオリーブ、アーモンド、プラムの木々に囲まれ、緑が濃い。沖合のスポラデス諸島には、映画『マンマ・ミーア!』のロケ地となり、一躍有名になったスコペロス島やスキアトス島など、野趣あふれる個性的な島々が点在する。
これらの島々にある無数の小さなビーチでは、静かにビーチバカンスを過ごす家族連れの姿が目立つ。アテネの富裕層をはじめ、イタリアや北欧からやってくるらしい。
ギリシャならではのとっておきのバカンスは、家族や友達同士でボートをチャーターして、のんびりと気ままに島巡りをすることだ。人数に応じて様々なタイプ、大きさの船があるが、簡単なキッチンとベッドルーム付きのボートを手配するのがいい。
昼間は島のタベルナで穫れたてのイワシやタコのフリットと特産の手長海老のパスタを頬張り、ビールを飲みながらワイワイ過ごす。そして、誰もいないとっておきのビーチを探し、優雅に泳ぎながら火照った身体をクールダウン。日が暮れれば島の入り江に停泊して、船上でディナー……と、気心知れる仲間との夢のような休日を過ごすことだって可能だ。

ピリオン半島 Pilioピリオン半島 Pilioピリオン半島 Pilio

名産の手長海老を使ったパスタとヤリイカのフリット。

無数の小島を縫うようにクルージング。

サントリーニ島Santorini ~海と空、太陽と過ごす絶壁の白亜リゾート~

まるで神が創造したかのような究極のロケーション・サントリーニ島。現地の正式な名前はTHIRA.ティラ.と呼ばれるその島を訪れて、まず目にするのは息をのむほどの絶景だ。断崖絶壁の崖の縁に段々畑のように佇む白い村、濃紺のエーゲ海はどこまでも静かで、雲ひとつない空との境目の区別がつかないほどに美しい。
ギリシャの太陽とこの絶景を求めて、毎年7~9月の約3ヶ月間のベストシーズンには、ヨーロッパ中から究極の滞在型バカンスを欲する、たくさんのラグジュアリー・トラベラーが押し寄せる。
この島のリゾートホテルの特徴は、断崖絶壁を利用した伝統的な居住スタイルの横穴式のゲストルームだ。多くのホテルは島の一番高いところにレセプションがあり、その先には急勾配な階段が崖にへばりつくよう海に向かって下っていく。階段の脇にはテラスがあり、崖の壁をくり抜いたゲストルームにつながっている。
どのホテルもこじんまりとしていて、大人の滞在型バカンスにはぴったり。日中の射すような強烈な日差しも、洞窟スタイルのゲストルームには届かないので、室内はひんやりとしていて快適だ。ホテルによっては室内に大きなバスタブやジャクジーがついているので、食事時以外はゲストムームから出ることなく、のんびり過ごすヨーロピアンが多い。

サントリーニ島Santoriniサントリーニ島Santoriniサントリーニ島Santorini

「フィロステファニー」にある有名な青い屋根の教会。

新鮮な野菜やシーフードがおいしい。

サントリーニ島では日常と非日常が交差する。

神話の世界への誘い

神話の世界への誘い
サントリーニ島の北側の村、イアの夕暮れ。神々しいほどの美しさに癒される。

この島がギリシャ神話の舞台に例えられるのは、夕暮れ時に刻々と変化する太陽、空、海が織りなす色と光のマジックアワーを目撃すれば納得することだろう。日中は全ての生気を蒸発させるのではないかと思えるほどの日差しだが、夕暮れ時になると一転。風が出て地中海性気候特有の海からの冷気が肌を冷やしてくれる。
太陽がエーゲ海に沈み始めると、それを合図に空が真っ赤に染まる。さらに橙から紫、群青色へと、この世の色彩全てを、空というキャンバスに塗り重ねたかのように刻々と変化していく。断崖の真っ白い建物がやがてシルエットになり、主役である太陽がこの世のものとは思えない色彩美で空を染め上げた後、エーゲ海へ沈んで静寂に包まれる。すると、どこからともなく拍手が聞こえてくる。それはまさにこの時間が、空と海を舞台にした神話の世界から続くオペラの舞台のようだからなのかもしれない。
歴史が始まる前、この地に住む人々は毎日このような地球を舞台にしたスペクタルな光景を見て感じ、現代人より密接に太陽、風、海から様々なことを学んできた。そして、それらが神話になっていったのだろう。火山の爆発でかろうじて残った火口の縁にあたるサントリーニ島で時を過ごしていると、太陽やエーゲ海から吹き付ける風が、かつての神話の世界を語りかけてくるようでもある。

ミコノス島 Mykonos ~純白の迷路と丘の上の風車~

ミコノス島 Mykonosミコノス島 Mykonos

海岸沿いのタベルナと夕暮れ時の風車。

旧市街「ミコノス・タウン」は迷路のよう。

サントリーニ島が崖の上にそびえる神々しい島に例えられるならば、ミコノス島はなだらかな地形を活かした純白の宝石箱といったところだろう。真っ白な建物が紺碧の海に溶け合うかのような町並み、そして島のシンボルでもある丘の上の大きな風車たち。この光景を見ながら波打ち際ぎりぎりにせり出したタベルナで昼から夜遅くまで、波音を聞きながら洗練されたギリシャ料理を味わう時間はなんとも贅沢だ。
白壁の家が密集した旧市街に一歩足を踏み込めば、曲がりくねった道は人がすれ違うのがやっと。純白の迷路に旅人はやがて方角と時間の感覚を喪失していくこととなる。地図など役に立たないので気の向くままにそぞろ歩くと、小さな広場や教会へ出くわしたり、行き止まりだったり。かと思うと、突然、洒落たカフェやバー、ブティックが軒を連ねる通りに出くわす。まるでおとぎの世界の迷路のようで、飽きることがない。
春から夏にかけてはほぼ毎日が晴天のギリシャでは屋外で食事するのが一般的だ。旅人も地元の人も皆、お気に入りの席を見つけると、ビールやギリシャの薬草酒ウゾを飲みながら長い長い夜を楽しむ。

ミコノス島 Mykonosミコノス島 Mykonos

白を貴重とした清潔なデザインホテルが多い。

夕日に照らされる風車。島のシンボル的な風景である。