蘇格蘭 美酒紀行

スコットランドの首都エディンバラを出発し、列車は北へと駆ける。
スコッチを片手に車窓に目をやると、なだらかな丘の上では羊が草を食んでいた。
やがて険しい海岸線が続いたかと思うと、ふいに崖の上に古城が現れる──。
豪華列車ロイヤル・スコッツマンに揺られて往く、スコットランドの魅力が凝縮された贅沢な旅へとご案内する。

ロイヤル・スコッツマンで往く、優雅な列車旅

ロイヤル・スコッツマンで往く、優雅な列車旅

スコットランドの首都エディンバラ。これから乗車するロイヤル・スコッツマンへのチェックインは、ウエバリー駅に隣接するバルモラル・ホテルのラウンジで行う。コンシェルジュに列車に乗ることを告げると、受付への案内があり、大きなトランクはベルボーイが運んでくれる。2階の受付で既に日本に届いていた乗車票を渡すと、キャビン番号を教えてくれた。出発時刻まではまだ少し時間がある。ラウンジで英国式の紅茶をいただき、一息つく。
ロイヤル・スコッツマンをはじめ、世界の豪華列車やラグジュアリートラベラーたちが憧れるイタリア・べニスの伝説的ホテル、チプリアーニやミャンマーのイラワジ川のリバークルーズなどを運営するのはオリエント・エクスプレスである。かつてはロンドン・パリからアジアの玄関口、トルコのイスタンブールまで、貴族や、かの有名な作家アガサ・クリスティといった著名人がこぞって利用した、優雅でラグジュアリーな列車旅を提供していたのがオリエント・エクスプレスという列車だ。当時は時間をかけてゆったりと各地を巡る列車の旅が上流階級に好まれ、列車内は彼らの社交の場でもあった。その雰囲気をそのまま現代に蘇らせたのだから、快適な旅が味わえるロイヤル・スコッツマンで往く、優雅な列車旅のは間違いない。
プラットフォームには赤い絨毯が敷かれ、スコットランド紳士がバグパイプの音色で我々ゲストを出迎えてくれた。車内に足を踏み入れると、かつて見た映画、もしくは小説で読んだあの「オリエント・エクスプレス」の世界に招き入れられたかのような錯覚を覚える。まずはウエルカムシャンパンとカナッペが用意された展望車へ案内される。ゲスト同士初めて顔を合わせるはずだが、すでにグラス片手に自己紹介や談笑がはじまっている。時代は変わっても、列車の旅というものは動く社交場なのだということを改めて気付かされる。ロイヤル・スコッツマンは、単に目的地へ向かう移動手段としての乗り物ではなく、列車自体が目的であり、旅なのだ。

ロイヤル・スコッツマンで往く、優雅な列車旅ロイヤル・スコッツマンで往く、優雅な列車旅

スコットランドの正装であるキルトを身に纏う紳士。

英国本土の人たちも憧れるスコットランドの原風景が車窓を流れる。

ロイヤル・スコッツマンで往く、優雅な列車旅ロイヤル・スコッツマンで往く、優雅な列車旅

展望デッキからの眺め。レールの先にあるのは丘と雲だけだ。

見事な寄木細工で装飾されたキャビン。エアコンやヘアドライヤーのほか、呼び出しボタンも完備されている。夜は駅や線路の脇に停車するため、ゆったりとした気分で眠れるのがうれしい。

古き良き時代がよみがえる、華やかな時間

バグパイプの音色を合図に、列車はゆっくりとウエバリー駅を発車した。この列車には運行を管理するトレインマネージャーや、24時間可能な限りゲストの要望をきいてくれるスチュワードが同乗し、最高の休日を演出してくれる。
スチュワードのエスコートでキャビンへ入ると、かつての上流階級の旅を想わせる内装に思わずため息が漏れた。ベッドやクッションカバーにはスコットランドの伝統柄であるタータンチェックが使われ、窓際には十分な大きさのデスクまである。何日でも、何週間でもこのまま旅していたいと思わせる、心地よい空気が漂っている。
展望車では、ひんやりとした風を肌で感じながら、スコッチウイスキーのグラスを傾けて過ごす。ここでは昼はカジュアルな服装で景色を楽しみ、バーに変わる夜は、皆ドレスアップして集う。夕食後には地元のミュージシャンや民話の語り部による催しを楽しみながら夜を過ごす。
顔なじみになったバーのスタッフは、ゲストの酒の好みまで把握してくれている。スタッフのひとりに尋ねてみた。「君のお気に入りのスコッチは何?」。彼は少し考えて、「スコッチウイスキーは同じブランドでもボトルの年数で味が違うし、どんな気分で、いつ誰と飲むのかでも変わってくるのでベストというものはないですね」と教えてくれた。なるほど、スコッチウイスキーはそれくらい繊細で深いものなのだ。今宵、彼は列車が停車している地域の地元ウイスキーを勧めてくれた。ふくよかな樽の香りと、いつまでも続く余韻を味わいながら、その地で育まれた酒を頂く――最高の旅ではないか。
旅の途中、スコットランド人から教えてもらった諺がある。彼の祖父から伝えられたものらしいが「Whenyou drink whisky, without water. Nowater without whisky.」という諺だ。要するにスコッチウイスキーは飲み過ぎるな、ということらしいが、それでも止められないのがスコッチウイスキーの魅力ということなのだろう。
食事の時間が近づくと、食堂車へと向かう。専任シェフによる地元の食材を使った料理はすばらしく、世界の一流ホテルの食事と比べても遜色ない。朝は焼きたてのクロワッサンやバケットに好みの玉子料理をいただく。午後は地元産のベリーをふんだんに使ったスコーンやケーキで、優雅なアフタヌーンティーを演出。そしてディナーは、季節の野菜の前菜にはじまり、上質のラムや魚などのフルコースだ。食堂車の脇の、決して十分な広さがあるとは思えないキッチンから出てくる、目で、舌で感動させるシェフの仕事ぶりは、魔法としか表現できない。

古き良き時代がよみがえる、華やかな時間
古き良き時代がよみがえる、華やかな時間
古き良き時代がよみがえる、華やかな時間

ディナーはフォーマルおよびインフォーマルが隔日で楽しめる。フォーマルなディナーでは、男性はタキシードやスコットランドの伝統的な正装であるキルトを、女性はカクテルドレスを着用。メニューは季節によって変わり、鴨や鹿などの猟肉、名物のシーフードなど、スコットランドの自然の
恵みがふんだんに取り入れられている。

地平線から朝日が昇るころ、列車は静かに走り出す。


THE ROYAL SCOTSMAN
日本でのお問い合わせ:オリエント・エクスプレス
TEL:03-3265-1200

イギリス王室の歴史が息づくハイランドの古城めぐり

今回の旅ではいくつかの古城めぐりを楽しんだ。鷹匠のいるドンロビン城(DUNROBIN CASTLE)に、緑豊かなゴルフコースを擁するバレンダロフ城(BALLINDALLOCH CASTLE)、そして英国のエリザベス皇太后(別名THE QUEEN MOTHER)が幼少を過ごしたことで有名なグラームス城(GLAMIS CASTLE)。門をくぐると一本の道が城まで続き、両脇には大きな並木と芝生。重厚な塔が印象的な、いかにもスコットランドという趣きのグラームス城には、広大な敷地の一角に四季折々の花や木々に彩られたイタリア庭園がある。城内はさながら博物館のようだ。ダイニングルームや暖炉のあるリビングルームは、歴代城主の肖像画や調度品にあふれ、建物内にプライベートチャペルまである。最も価値があり有名なのが、TheRoyal Suite と呼ばれるエリザベス皇太后が過ごした部屋だ。部屋は皇太后が過ごしたそのままの状態で保存されていて、書斎には当時の筆記具まで残されている。壁に飾られたロイヤルファミリーの肖像画や写真、調度品の数々が、皇太后がここで過ごした華やかな日々を物語っている。

スペイサイドに集まるスコッチウイスキー蒸留所

スコットランドには約100のウイスキー蒸留所が点在するが、その半数近くがスペイ川沿いに集まっている。それらを称してスペイサイドと呼ぶ。この辺りの土地で獲れる良質な大麦とスペイ川の豊かな水源、そして年間を通して冷涼な気候が、ウイスキー作りに最適なのだという。マッカラン、グレンフィディック、シーバスリーガルで有名なストラスアイラ蒸留所など、世界的に有名なモルトウイスキーの蒸留所は、みなこのスペイサイド・エリアにあるのだ。
今回はハイランド地方の首都にあたるインバネスにあるグレン・オルド蒸留所を訪れた。1838年から続く歴史のある蒸留所だ。
ガイドが丁寧に説明しながら、オリジナルのポットスチルや熟成庫などを案内してくれる。お待ちかねのテイスティングでは、樽の中から取り出した年代もののウイスキーを試飲させてくれる。美しくライトアップされ、たくさんの樽が静かに時を待つ熟成庫を眺めながら、黄金色に輝く数種類のウイスキーをいただく。まずは色と香りを楽しみ、そして喉に流し込む。深く永い眠りから覚めたばかりのウイスキーの余韻は、いつまでも華やかに残り、旅の記憶とともに刻みこまれた。

旅の終わりを飾る、エディンバラ市街とスコッチウイスキー博物館

ロイヤル・スコッツマンのゲートウェイであるエディンバラは、小じんまりとした落ち着いた町。オールドタウンのある丘の上には、エディンバラ城と中世の雰囲気を残す通りがあり、その反対側の丘には、18世紀以降に開拓されたニュータウンと呼ばれる整然とした町並みが広がる。
観光客はまずエディンバラ城とオールドタウンを目指すことになる。駅から丘を目指して坂を登ればすぐだ。観光客で賑わうエディンバラ城の城内には、スコットランド女王メアリースチュワートが、後にイングランド王となるジェイムス1世を産んだ「メアリー女王の部屋」がある。このエディンバラ城と、英国の王族たちがスコットランド訪問時に滞在するホリドールハウス宮殿を、ロイヤルマイルと呼ばれる道が結んでいる。ロイヤルマイル沿道がエディンバラ観光のハイライトといってもいいだろう。
旅の終わりに是非訪れたい場所があった。「スコッチウイスキー・ヘリテージセンター」、スコッチウイスキーの博物館だ。列車を降りる最後の晩にバーのスタッフに教えてもらった。ここではスコッチウイスキーの蒸留の過程やスコッチウイスキーの歴史、モルトウイスキーとブレンドウイスキーの違いや秘密などを、各国の言語で説明を聞きながら学ぶことができるのだ。最後には世界のウイスキーがコレクションされた幻想的な部屋でテイスティングまでできる。建物内にはツアーとは別に、のんびりとウイスキーを堪能したい人のためのレストランやバーがあり、スコッチウイスキー好きが集まる。実のところここでテイスティングをして好きなスコッチに出会ってしまい、観光どころではなくなり、陽が傾くまでここのバーで過ごしてしまった。まさに至福の時だった。それにしてもスコッチウイスキーは奥が深い。ハイランド、スペイサイド、アイラ、アイランドなどの特徴ある産地、さらに熟成させる樽の種類や年数等々。どうやらスコッチウイスキーの旅は始まったばかりのようだ。終わりなきスコットランドの旅に乾杯!

雲上で味わう、至上のくつろぎ

スコットランドへの旅の始まりと終わりを飾るのは、ヴァージン アトランティック航空の斬新なもてなしだ。ワンランク上のビジネスクラスと称される「アッパークラス」のサービスは、空港に到着する前から始まる。規定区間内であれば、自宅から成田空港までを運転手付きの車で無料送迎してくれるのだ。
機内はホテルのスイートルームをイメージしたゆったりとした空間。座席に腰を下ろすと、至上のくつろぎへといざなってくれる。リクライニングしたままで離着陸が可能なのも嬉しい。プライバシーが保たれるので、仕事をするにも映画を見るにも快適だ。食事をするときには同行者と向い合わせにすることもできるし、気分を変えてバーカウンターで語りあうのもいい。眠くなったら座席をフルフラットにして横になれば、ロンドンまであっという間に着いてしまう。
また、ヒースロー空港からエディンバラまでは、今年就航した国内線「リトル・レッド」を利用してわずか1時間半。同日乗り継ぎも可能なため、より便利で、時間も有効に使える。
旅の快適性と利便性を追求するヴァージン アトランティック航空。その至福のサービスが、旅の質をさらにランクアップしてくれることだろう。

ヴァージン アトランティック航空
www.virginatlantic.co.jp