Singapore changi 国際空港。

夕刻成田空港を飛び立ち、やっと長いフライトから開放された。シンガポールと日本の時差は1時間。到着は深夜日付が変わる頃だ。この時間のフライトならば、昼過ぎまでオフィスで仕事をこなし、機内での仕事もはかどる時間帯だから、たいていこの時間帯の飛行機を利用する。いつもは飛行機から降りるとぐったりと疲れているのだが、今夜はいつもと違う。なぜか気分がいい。

ビジネスクラスはいつもどおり、座席の大半が埋まっていた。その多くは欧米系やアジア系のビジネスマンだ。彼らは機内でも忙しくパソコンのキーを叩いている。私もそんな彼らと同じく、締め切りが近い原稿執筆を行っている。同時に、翌日に行われる1千人の聴衆を前にした講演の原稿を書いている。フルフラットの心地よいベッドを利用するのは数時間後だろうか。近年の機内食はどの航空会社も競うようにレベルアップしている。しかし、このフライトではその味を十分に堪能している時間はないだろう。

日本の不動産市況は今が狙い目

最近、シンガポール系を中心にアジア系ファンドが日本の不動産市場を狙っている。彼らに言わせると、日本の不動産市況は今が底であり、他のアジア各都市の不動産価格が高騰している中、日本だけが停滞しているということで、確実にリターンの得られる狙い目案件らしい。あまりにも価格が高騰している上海ではリターンを得るのが難しく、また中国は経済や不動産市況が政治に左右される可能性も否定できず、投資先としてはすでに”?”がついている。

キャビンアテンダントが、「何かアルコールはいかがですか」と聞く。しかし、ここはぐっとこらえて、「コーヒーをください」と返事する。「お仕事ですか。がんばってください。少しは休んでくださいね」。とてもスマートな接客をする彼女は、慣れた様子で乗客に話しかけている。食事を簡単に済ませ、引き続き原稿と格闘する。まだ、終わりそうにない。この調子だと到着するまでずっとパソコンを眺めているにちがいない。先ほどのCAが席に近づいた時に、「もしも、私が寝ていたら起こしてください。締め切りが迫っている原稿があるんです」とお願いした。彼女はにっこりと笑って「わかりました。がんばってください。時々、お飲み物をお持ちしますね」と答えた。

アジア系ファンドが日本の不動産デベロッパーに急接近

日本の不動産デベロッパーは、(財閥系の数社を除けば)金融機関からいかに資金を調達するかが経営の重要なポイントとなっている。一旦、不動産市況が悪化すると、金融機関はそれまでの融資スタンスを”手のひらを返した”ように、厳しくなる。2008年後半からの数年で多くの新興デベロッパーが倒産に追い込まれたが、その大きな要因のひとつはこれだ。
シンガポール系ファンドやその他アジア・中東系のファンドはこうしたことを十分に承知の上で、日本の不動産デベロッパーに近づいている。金融機関から資金を調達するのではなく、我々の集めた資金で不動産ビジネスを展開しないか、という誘い掛けである。そして、十分なリターンを要求する。
彼らは先に述べたようにアジア各地と比較しての日本の不動産の現状を”買い”だとしているから、いい条件の融資には、とても積極的だ。日本の不動産市況が冷え込んでいた2000年ごろから、欧米系のファンドが日本の不動産にお金をつぎ込んだように、今回はアジア系のマネーが間接的に日本の不動産を買おうとしている。だとすれば、来年から数年間にわたって地価は上昇、大型ビルの売買も積極的に行われるだろう。

シンガポールの夜。

到着するギリギリの時間になんとか原稿を書き上げた。彼女はシンガポールに着くまでに2回席に近づき、寝ていないことを確かめ、飲み物を持ってきてくれた。この時間の到着だから、今夜は当然シンガポールにStay だろう。軽い気持ちで、そして感謝の気持ちで誘ってみることにした。”到着したら、軽くいっぱいどう?
コンラッドホテルのBARで?”と書いたメモを渡す。すると彼女はペンを取り出し、そのメモにきれいな字で”BARに到着したら、電話をください。番号は・・です”と書いた。
飛行機が着いても、彼女は到着後の仕事があるだろうから、1時間くらいはかかる。ホテルに着いたら、荷物を置いて、一目散にホテル内のジムに向かいリフレッシュしよう。そして、爽やかな気持ちで彼女に会いたい。

BARでは、飛行機の中で我慢したスパークリングワインを一杯目に飲むことに決めた。