Italy 時を超え美と戯れる

レオナルド・ダ・ヴィンチの遺志を引き継ぐ都市ミラノと永遠の都ローマの2都市を巡るラグジュアリーな旅。世界で9軒だけに許された「ドーチェスター・コレクション」のポートフォリオに誘われて、比類なき至福の旅が始まる。

写真・文・/大橋マサヒロ

 

永遠の都ローマを歩く

映画で見たあの街角、古代史の遺跡群、天才芸術家たちの遺した作品、そして、今を生きるローマの人々。悠久の時を刻み続けるこの街には古代からの歴史と芸術が色濃く残る。

フォロ・ロマーノの全景を前にかつてのローマ帝国に想いを馳せる。

 

古代都市を彷徨う

およそ3000年もの長きにわたり人類史の中心として栄えたローマ。永遠の都を歩けば様々な発見と感動に出合える。広場や噴水、さらに教会や古代の円形劇場をはじめ、ルネサンス時代の到来により才能が開花した天才芸術家たちの競演など、まる でオペラの演目のように、観る者の心のひだをくすぐる。色褪せることのない歴史都市は、旅人の好奇心を惹きつけてやまない。

ヴェネツィア広場からフォロ・ロマーノ、そしてコロッセオ周辺は、紀元前からの古代ローマ帝国の街がそのまま埋まっているといっても決して大袈裟ではないだろう。説によればローマの歴史は紀元前753年まで遡れるという。7つの丘に囲まれたフォロ・ロマーノ周辺にエトルリア人が住み始め、建築土木の技術に優れた彼らの手により街として発展。その後、政治や商業、公的な場として人々の信心を集めていき、紀元2世紀にはローマの人口は100万人に達していたという。神殿跡や凱旋門、当時5万人を収容したというコロッセオなど、人類史の光りをあとに、栄枯盛衰の光と影に酔いしれながら旧市街を歩けば、新たなローマに出合えることだろう。

コロッセオには毎日多くの観光客が押し寄せ、開門と同時に長蛇の列ができる。

ローマは街中が遺跡に埋もれているといっても過言ではない。街を歩けばまるで映画のワンシーンのような情景に出会うことだろう。

映画のロケ地として有名なスペイン広場には早朝に訪れるのがおすすめ。

 

バチカン、美の聖地巡礼

カトリック教徒の聖地バチカンは古代からルネサンス、そしてバロックと時を超えて今に受け継がれる「美」の聖地でもある。

サン・ピエトロ大聖堂の内部からミケランジェロが設計した大クーポラを見上げる。

 

聖なる美を体験する

ローマの中心部から西へ向かい、テヴェレ川を渡ると世界で最も有名な建築物の一つ、サン・ピエトロ大 聖堂とその広場に着く。そこは10億を超えるカトリック教徒の総本山バチカン市国、世界最狭の独立国ということだけでなく、歴代教皇が蒐集した彫刻や美術品など、当時の稀代の芸術家が手がけた「美」が静かに時を刻んでいる。バチカンにはいくつもの美術館や博物館があるので、美の殿堂で天才芸術家たちの遺した作品を間近に鑑賞したい。

ミケランジェロが設計したサン・ピエトロ大聖堂の大クーポラをはじめ、バチカン美術館やシスティーナ礼拝堂など芸術と宗教は高度に発展し、洗練された「聖なる美」という共通項で結び付く。それらは時を超えて、今を生きる我々に何かを語り かけてくる。当時の教皇の気まぐれ か、権力者たちの力の誇示なのか。ルネサンス時代にはミケランジェロとラファエロはフィレンツェから、ダ・ヴィンチはミラノからバチカンへやってきて、才能を後世に遺すべく心血を注いだ。バチカンという地は、聖俗の区別なく様々な人々を呼び寄せるという意味で、万物にとっての聖地なのかもしれない。

礼拝堂や宮殿、美術館などは広大な敷地を有するため、とても1日ですべてを見ることはできない。

ピオ・クレメンティーノ美術館の「円形の間」はパンテノンを模して造られた。

バチカン美術館には世界屈指の古代ローマ彫刻や、16世紀後半のイタリア各地方と教会所有地を描いた地図などが展示されている。

 

ローマからミラノへ− ドーチェスター・コレクションを巡る[Rome]
開業130年を迎えたローマの絶景ホテル
Hotel Eden Rome ホテル・エデン・ローマ

 

セレブリティが愛した名門老舗ホテル

7つの丘の街と呼ばれるローマ。その丘の一つ、ピンチョの丘に佇むローマを代表する老舗ホテルだ。地元の人々の憩いの場であるボルケーゼ公園が背後に広がる閑静な高級エリアにあり、ローマ散策のシンボルでもあるスペイン広場が徒歩圏内という好立地を誇る。

1889年に創業したエレガントなホテルは、開業時、当時のホテルとしては珍しく水道や電気が通い、暖房やエレベーターを備えていたことが相まって、瞬く間にローマを代表するセレブリティの定宿となった。イタリア映画界の巨匠フェデリコ・フェリーニはこのホテルの最上階からの眺めがお気に入りで、自身のインタビューの場所に、いつも「ホテル・エデンの最上階で」と指名したという。

2019年には開業130年を迎えた。3年前には全面改装を終え、建物の趣きや雰囲気はそのまま残しながら最新のテクノロジーやファシリティを導入し、伝統と革新という両輪でローマのアイコンホテルとしての地位を不動のものとしている。ところでローマの街の印象といえば遺跡と観光客、そして絶え間ないクラクションを鳴らしながら我が物顔で疾走する車やバイク、さらには路上駐車で溢れる石畳の道といったところだろうか。しかし、ホテル・エデ ンのエントランスのファサードは優美で余りにも美しく、正装したドアマンにスマートな身のこなしで出迎えられると、喧騒と歴史的建造物や遺跡が同居する刺激的な街にあって、その印象はガラッと変わる。

館内に足を踏み入れると、ロビーラウンジは静かで明るく、落ち着いた雰囲気に自然と癒されてしまう。ここでは日中はスナックやお茶のサービスがある。さらに日が暮れると壁際のライブラリースペースの書棚が隠し扉のように開き、なかからグラスとスピリッツが現れる仕掛けになっている。ディナー前のアペリティフを楽しめるのだ。

レセプションと対に配置されたコンシェルジュデスクには、常に数名のコンシェルジュが待機している。彼らはショッピングや観光、地元で人気のレストランなどを的確にアド バイスし、必要に応じて手配もしてくれる。今回、バチカンの美術館を巡りたいとお願いしたところ、車の手配から優先チケットの予約、ガイドの紹介といったすべてを完璧に手配してくれた。観光都市であるからこそ、頼りにしたい存在である。

ローマの街を一望できるレストランでゆったりと朝食をいただく。

数々のセレブリティを迎えてきたゆったりとしたロビーラウンジ。

エデンスパは都会のオアシスのような存在。

130周年を記念して提供されるシグネチャーカクテル「ロイヤル・エデン」のほか、イル・ジャルディーノ・バーでは様々なカクテルが用意されている。

 

甘美な滞在を実現

客室は全部で63室。どの客室も天井が高く開放的で、何よりも居心地の良さを大切にしているのが伝わる。さり気なく飾られているイタリアンアートはどれも品が良い。洗練されたデザインのモザイクが施されたバスルームを備える部屋もある。

特筆すべきはそれぞれに趣きが異なる4つのシグネチャースイートの存在だ。特にドルチェ・ヴィータ・スイートは、1960年に公開のローマの上流階級の生活を描いた映画「ドルチェ・ヴィータ(甘い生活)」を イメージした客室。ホテル・エデンをこよなく愛したフェデリコ・フェリーニが同作品の監督なので気にならずにはいられない。まるで映画のワンシーンを再現したかのようなエレガントなリビングには、ドルチェ・ヴィー タをイメージしてセレクトされたホテルオリジナルのレコードがプレイヤーにセットされ、そこから流れるアナログの音が甘くそして色褪せた記憶を呼び起こしてくれる。

この絶景を愛してやまない常連客が多いというのも頷ける。

 

「私の料理の特徴はヘルシーで信頼できる食材の持ち味を最大限に引き立てること。そして、革新性を意識しながら、芸術的なプレゼンテーションに仕上げます」と胸を張るエグゼクティブシェフのファビオ・シエルヴォ氏は元体操選手という異色の経歴の持ち主。元アスリートだからこそ料理は美味しく、そしてヘルシーにという哲学を兼ね備えることになったのだろう。ホテル内のミシュランスターレストラン「ラ・テラッツィア」 でローマの街を一望する絶景と共に、イタリアの伝統的料理にファビオ氏が現代的なアレンジを加えた極上のひと皿を味わいたい。客室や最上階のテラス、バーから眺める光景はまるで一幅の絵画のよう。夕暮れ時、淡いローズピンクに染まるローマの空とサン・ピエトロ大聖堂のクーポラや教会の斜塔を眺めながらアペリティフの時を愉しめば、ここがローマのエデン=天国だときっと悟ることだろう。

ミシュランスターレストラン「ラ・テラッツィア」ではロマンチックな夜景を眺めながらゆったりと食事ができる。

エグゼクティブ・シェフのファビオ氏は伝統的な料理をヘルシーで芸術的に仕上げる。まるで芸術作品のように彩られた料理を五感で楽しみたい。

エグゼクティブ・シェフのファビオ氏は伝統的な料理をヘルシーで芸術的に仕上げる。
左上/ドルチェ・ヴィータ・スイートはローマの高級アパートメントのような優雅さが漂う。
左下/最上階のベラビスタ・ペン トハウス・スイートのバスルーム。豪華でその広さに驚く。
右/館内には絵画やオブジェが飾られている。 まるでアートギャラリーのよう。

 

Information

Hotel Eden Rome

Via Ludovisi 49, 00187 Rome

TEL +39-0-6-478121

https://www.dorchestercollection.com/en/rome/hotel-eden/

 

ローマからミラノへ− ドーチェスター・コレクションを巡る[Milan]
ミラネーゼに愛され続ける伝統と格式
Hotel Principe di Savoia ホテル ・プリンチペ・ディ・サボイア

 

受け継がれるミラノの社交場

1927年に開業したミラノを代表するホテル・プリンチペ・ディ・サボイアはミラネーゼ御用達の社交場的存在。昼夜を問わず着飾った紳士淑女の姿が絶えない。特にロビーラウンジ「イル・サルット」はホテル を象徴する場だ。壁にはイタリア人アーティストのコンテンポラリーアートが飾られ、ベニスのムラノ島で特注されたシャンデリアの柔らかな光が館内を照らす。すべてのゲストが主役を演じるための舞台を華やかに演出しているのだ。

ここでは宿泊客だけではなくミー ティングをするビジネスエグゼクティブやティータイムを優雅に過ごす地元の方も多く、故パバロッティ氏は常連客としていつもお気に入りのパスタを食べながら、ゆっくりと流れる時間を堪能していたという。つまりこの空間は単なるロビーラウンジではなく、ホテル・プリンチペ・ ディ・サボイアの顔、いやミラネーゼにとってなくてはならない大事な場所となっているわけだ。

イタリアンモダンアートに囲まれて過ごす心地の良いロビーラウンジは常に賑わう。

ベネチアンガラスの豪華なシャンデリアに灯される瀟洒なプリンチペ・バー。

イタリアの誇るオペラ歌手パバロッティ氏の愛したパスタや、ムラノガラスのグラスで提供するオリジナルカクテル「プリンチペ・アニバーサリー」を楽しめる。

モダンなイタリア料理をソムリエ厳選のワインとともに楽しむメインレストラン「アカント」。

 

変わらぬ伝統と格式を体感

全客室301室のうちスイートルームは44室。すべての客室はモダンアートや最新のマテリアルを採用しながらも、開業当時のクラシカルなデザインを随所に残している。中でも印象的なのが数々のセレブリティがミラノ滞在の際に指定するというプレジデンシャルスイートだ。客室へは専用のエレベーターでアクセスでき、こうしたプライバシーへの配慮も人気の秘密なのだという。重厚なドアを開けた先に広がるのは、なんと500m²を誇る大空間。専用エリアには長い回廊が貫かれ、まるで瀟洒な古城に迷い込んだような気分になってくる。

美しいモザイクのタイルはラベンナで創業して芸術的なモザイク文化を継承するシチス社製。カーテンはスカラ座でも採用されているルベリ社製の特注のものだそう。空間はアンティークの家具に囲まれ、イタリアンクラフトマンシップの贅を尽くしたインテリアに圧倒される。床はタイル張りで天井にはフレスコ画が描かれる。さらに、古代ポンペイで貴族が暮らしていた邸宅をイメージして作られた専用の室内プールには、トルコ風ハマムやスチームサウナまでもが併設されており、贅の極みと言えるだろう。

クラシカルでありながら手入れの行き届いたプレジデンシャル・スイートのダイニングルーム。

王侯貴族に親しまれてきたホテルならではの気品が漂うスイートルームの回廊。

ロイヤルスイートの寝室には開業当時のシャンデリアが受け継がれている。イタリアが誇る世界的なファブリックや伝 統的な家具調度品で設えられた客室。

モダンにリノベーションされたバスルームには美しいタイルが使われている。

 

日が暮れたら「プリンチペ・バー」 へ。3000ピースものムラノガラスのシャンデリアが映し出す妖艶な灯りの下、オリジナルカクテルでアペリティフを楽しんだら、メインレストラ ン「アカント」でゆったりとディナーを堪能したい。窓の外にはイタリア様式の庭園がライトアップされ、ロマ ンチックな雰囲気を演出してくれる。創業以来、王侯貴族や文化人から愛されてきたホテル・プリンチペ・ ディ・サボイア。ネオクラシカルな雰囲気を変えぬよう伝統を守りながら、常に進化を続けるミラノを代表するホテルで、伝統と革新の妙をぜひとも体感してみたい。

 

Information

Hotel Principe di Savoia

Piazza della Repubblica 17, 20124 Milan

TEL +39-0-2-62301

https://www.dorchestercollection.com/en/milan/hotel-principe-di-savoia/

 

Dorchester Collection ドーチェスター・コレクション

ミラノのホテル・プリンチペ・ディ・サボイアとローマのホテル・エ デン・ローマは、欧米にラグジュアリーホテルを所有または運営するドーチェスター・コレクションのメンバーホテル。ロンドンのザ・ドーチェスター、パリのホテル・プラザ・アテネ、アメリカのザ・ ビバリーヒルズ・ホテルなど、他に類をみないアイコニックなホテルばかりがラインアップし、現在は世界で9軒のみが許される最高級都市型ホテルブランド。その国や都市を代表するランドマーク的な存在で、洗練された本物の価値あるホテルコンセプトとし、卓越したおもてなしとかけがえのない体験を提供している。

https://www.dorchestercollection.com/en/

【日本でのお問い合わせ】

ドーチェスター・コレクション・リザベーション

TEL 0120-914-084

 

ミラノ、ダ・ヴィンチを旅する

レオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年を迎えた2019年には、ヨーロッパ各地で様々な行事が行われたが、ミラノの街はその中でも特別な意味を持つ。

芸術家でありながら科学者、軍事顧問、舞台演出家、さらに は光学や幾何学、解剖学にも精通していたダ・ヴィンチの功績は誰もが知るところだろう。しかし、意外にも手がけたとされる絵画は15点ほどしか存在せず、そのほとんどが未完成だという。当時、定説だった天動説に対して、宗教観を超えて己の目と観察力のみを信じて太陽の動きを「発見」するなど、その独創的な思考と行動力は驚くほどに現代社会を「予言」している。世界で唯一、ダ・ヴィンチの手稿を個人所有するビル・ゲイツ氏や故スティーブ・ジョブズ氏など、現代を代表するビジネス改革者たちがルネサンス時代の天才に魅了されたのは必然なのだろう。

彼は手稿でこうも記している。「やがて世界各地で、この発見が語られる日が来る」と。ミラノの新興地区に聳える、緑に覆われひときわ目立つ高層住宅「ボスコ・ヴェルティカーレ(垂直の森)」 は、様々な賞を受賞した革新的な建造物。永らく非公開だったスフォルツェスコ城の「アッセの間」の天井に描かれていたのは室内を覆い尽くすかのような躍動感あふれる桑の木々。描いたダ・ヴィンチの情熱と感性はしっかりとミラノの街に根を下ろしている。

ダ・ヴィンチが描いた「桑の木」は長く非公開だったが、最新技術のプロジェクションマッピングで蘇った。

テラスから緑が溢れる革新的な高層住宅は都会のオアシスのようで、新しいミラノの街を象徴している。

ダ・ヴィンチの描いた絵の上に弟子が描いた「マドンナ・リア」。額の裏にはダ・ヴィンチのサインが残る。

膨大な蔵書が納められているアンボロジアーナ絵画館は当初、図書館として建てられた。

没後500年を経ても色褪せることのないレオナルド・ダ・ヴィンチの功績。アンボロジアーナ絵画館で期間限定で公開された大変貴重なダ・ヴィンチの手稿もそのひとつ。

アンボロジアーナ絵画館にはボッティチェリやラファエロなどのルネサンスを代表する画家の作品が期間限定で展示されている。

ダ・ヴィンチに影響を受けた画家ベルナルディーノ・ルイーニの作品。