カプリ、イスキア 紺碧の海と空に輝く二つの大地
南イタリア、微笑みの島々に憩う

ナポリから船で小一時間。歴代のローマ皇帝が“甘美なる快楽の地”と讃えたカプリ島。そして、温泉にも海の幸にも恵まれた風光明媚な島イスキアの二つの島々に出合う。青の情景に描き出された二つの大地。みずみずしい息づかいに憩う。

取材・文:朝岡久美子 撮影:中村ユタカ

 

カプリ島 VIPたちが 愛した地上の楽園

“甘美なる快楽の地”

石灰岩の乾いた岩肌が織りなす大地は、真昼の光にアイボリーの淡い輝きを照らし、時に華奢な女性のよ うにもろさと美しさをも露わにする。そこには、850種もの草花がありとあらゆる色彩を描き出し、紺碧の海と空に微笑み続ける。

南イタリアの景勝地カプリ島。世界中のVIPから愛され、憧れのデスティネーションと讃えられてきた島だ。ジャクリーン・ケネディーをはじめとするアメリカのセレブリティたちが、こぞって旅のデスティネー ションとしたことで世界中にその名 声が高まった1960年代から、いまだカプリ島を目指す人々の波は、後を絶たない。多くの観光客に交じって、上流階級と思しき人々が何気に散歩している姿がいかにもカプリ島らしい。

カプリ島をこよなく愛した人々の 歴史の始まりは、言わずもがな20世紀などではない。そこは悠久の歴史を誇るイタリアだ。時はローマ帝国時代に遡る。かの初代皇帝アウグゥ ストゥスは“甘美なる快楽の地”と讃え、この地をこよなく愛した。続く皇帝ティベリウスは、統治半ばにしてこの島に隠棲し、島の文化的インフラの基礎を造り上げたとされている。何を隠そう、かの「青の洞窟」もティベリウスのプライベートプールだったのである。

左/島の目抜き通りには歴代のセレブリティたちを魅了した最高級ブティックが立ち並ぶ。島の美しさに加え、この情景に憧れて世界中から多くの人々がカプリ島を訪れる。
右/カプリ島の中心地「ウンベルト一世広場」。通称“ピアッツェッタ(小広場)”と呼ばれ、カプリの華やかなライフスタイルの中心地だ。シーズンは夜も昼もカフェに集う人々で賑わう。

左上/カプリ島の名産品「リモンチェッロ」。南部イタリアでは多く生産されているレモンリキュールだが、カプリのこのリモンチェッロが正真正銘のオリジナルだ。
右上下/14世紀、カプリ島に暮らしていたカルトジオ会の修道士たちが、島で採取した花々を活けた花器から魅惑的な芳香がすることに気付く。そこから生み出されたフレグランスが後に『カルトゥージア』という名で商品化され、世界的に有名になった。
左下/カプリ・サンダルはジャッキー・ケネディやソフィア・ローレンもこよなく愛した。

 

カプリ島滞在の極意

観光的な魅力はもちろんのこと、ローマやミラノの目抜き通りを凌ぐともいわれる洗練されたブティックやショップを見て回るのも楽しい。カプリ島オリジナルのサンダルは、ジャッキー・ケネディやソフィア・ローレンがこよなく愛したものだ。

もう一つ、『カルトゥージア』のフレグランスもお勧めしたい。 14世紀、この島に暮らしていたカルトジオ会の修道 士たちが、島で採取した花々を活けた花器から魅惑的な芳香がすることに気付く。そこから生み出されたフレグランスが後に商品化され、世界的に有名になったという。島内にいくつ かある店舗は、どれも趣きあるしつらえで、見て回るだけでも楽しい。

カプリ島滞在中は、日常の生活リズムを忘れ、島で暮らしているかのように、ゆったりとみずみずしい空気感を味わってほしい。光り輝く青の情景、夕陽に暮れなずむ地中海マツのシルエットや、岩礁の威容をバックに自然との対話に心震わせるひととき。先人たちが“快楽の地”と褒め讃えた理由が感じられるはずだ。

「青の洞窟」。水深20m、太陽の反射によって水面から洞窟全体が紺碧の光を帯び、神秘的な雰囲気を醸す。皇帝ティベリウスの私的なプールであったとされる。実際、洞窟の一番奥を見ると彼の館に直結していたといわれる地下通路への穴が遺されている。

左・中/スウェーデン人の医師、小説家アクセル・ムンテの白亜の私邸「ヴィラ・サン・ミケーレ」。ヴィラからの海の眺めもまた格別、
右/アナカプリ地区は素朴な情景にあふれる。

 

カプリ島を彩る伝説の宿 グランド ホテル クィシサーナ

世界中のリゾッターたちが集うカプリ島。今も昔もこの島でアイコン的な存在としてあり続けている宿がある。グランド ホテル クィシサーナ。いまや伝説ともなっているこの宿の魅力をお伝えしよう。

解放感あふれる中庭のプールサイド。青の情景と心地よい風に抱かれてゆったりと寛ぎたい。

ハイシーズンにはカプリの社交場となる、クィシサーナのカフェ・バー。

 

カプリ島の旅はここから始まる

カプリの中心地、ウンベルト一世広場から、目抜き通りヴィットーリオ・エマヌエーレ通りを下ると、貴婦人のように品格のある瀟洒な建物が見えてくる。グランド ホテル クィシサーナだ。

1861年の誕生以来、この宿に集う麗しき人々が醸しだす艶やか な芳香によって、カプリの華麗なるライフスタイルと文化が紡がれ続けてきたのだ。瀟洒な建物の扉を開けると壮麗 な空間に様々な時代の調度品がセンス良くしつらえられている。帝政様式、アラブ風…。ともすると破 綻しそうなくらいに様々な色合いと様式が絶妙の調和を見せる。一つのスタイルにこだわらずに、自由なスタイルを描いているのも、「自宅のサロンのように寛いで欲しい」という思いの表れなのだという。これぞ遊び心いっぱいのカプリスタイルのもてなしの極意。要人やセレブリティたちも、ここでは素顔に戻れるのだという。

重厚感とともに、私邸のサロンのような温かな寛ぎがある。

客室や館内の各所のインテリアもシンプルさを基調とする。ブティックホテルとは一線を画する昔ながらの美しきホテルの優雅な趣がこの宿の真骨頂だ。しかし、この“昔ながら”のディテールを保つために彼らがどれほどまでに心血を注いでいるかを知れば、見えないところにこそ心遣いを惜しまない極上の宿の心意気を感じさせてくれるのだ。

長年通い続けている“アビトュエ(フランス語で常連の意)”たちも、眺望の良い部屋を選ぶのではなく、地味でシンプルな、しかし心からリ ラックスできる客室を指定してくるのだという。

クィシサーナは、全体的にブティックホテルとは明らかに一線を画する伝 統的なグランドホテル様式を誇るが、ライブラリーは少しだけモダンだ。と、いっても、やはり、富裕層の館の私的サロンの雰囲気が漂う。

眼前に広がる青の情景に美しく調和するように客室は至ってシンプルなつくりになっている。しかし、細部への心遣いは心憎いばかりだ 。

 

南イタリアの風薫る食の世界

この宿の料理を味わえるのはまた最高の贅沢だ。故グアルティエーロ・マルケージの下で修業したエグ ゼクティブ・シェフのステファノ・マッゾーネ氏が厳選した最高の食材が織りなす食の世界は、まさに南 イタリアの文化を絵に描いたような楽しさと温かさに満ちている。中でも、メインダイニングRendez Vousは特別な場所だ。世界で最も洗練された通りと言われるカメレッレ通りに面した極上の空間は、歴代のセレブリティたちが舌鼓を打った伝説のレストランだ。

そういえば、かの有名なモッツァレラチーズとトマトを用いた“インサラータ・カプレーゼ”はこの宿で生まれたそうだ。この宿を愛した芸術家たちが所望した由緒ある一皿と聞くだけで、往年の古き良き情景が一気に脳裏に広がる。何につけても夢あふれる宿だ。

左/エグゼクティブ・シェフのステファノ・マッゾーネ氏は、故グアルティエーロ・マルケージの下で修業を積んだ気鋭の料理人。歴史に名を残すホテルの大厨房を取り仕切る重要な存在だ。30人の料理人を抱えつつ、老舗ホテルにふさわしいメニュー開発のために研究に余念がない。
中上/ポンペイのモザイクをイメージした色彩感、そして、プーリア州やカラブリア州の海の香りを感じさせる素材をふんだんに生かした一皿。 中下/おもてなしのプロの笑顔に癒される。
右/トマトとモッツァレラチーズを合わせたかの有名な“インサラータ・カプレーゼ(カプリ風サラダ)”は、20世紀初頭このホテルで生まれた。完全なオリジナルだ。

シグニチャーレストランRendez Vous。多くの賓客をもてなしてきたこのホテルにふさわしいレストランだ。貴婦人のような品格を湛えるたたずまいも美しい。

 

Information

グランド ホテル クィシサーナ Grand Hotel Quisisana

Via Camerelle, 2, 80073, Capri(NA)

TEL. +39-081-8370788

日本での予約:ザ・リーディングホテルズ・ オブ・ザ・ワールド

TEL. 0120-086-230(フリーダイヤル)

www.LHW.com/quisisana

 

イスキア島 風光明媚な温泉島でデトックス滞在

テルメ・マンツィオテル&スパの内観はなんとも エキゾチックだ。イスキア島がオスマントルコの支配を受けたという歴史もあるが、何よりも非日常感の中でゆったりとウェルネス滞在を楽しんで欲しいというオーナーの思いが込められている。

 

イスキア島〜イタリアの温泉郷〜

カプリ島からフェリーで約45分。イスキア島は火山帯に属するため、島のあらゆる場所に源泉が湧き出ている。残念ながら日本ではあまり知られていないが、温泉や海の幸にも恵まれ、多くの映画の舞台にもなった風光明媚なイスキア島は、我々日本人にとってカプリ島と並んで親しみやすいデスティネーションの一つ だろう。島には280軒ほどのホテルがあり、そのうちの100軒くらいで温泉を楽しめるという。ただ、ここでいう温泉は、日本の温泉郷とは 違い、温泉を用いた温水プールや泥と温泉水を使用しての温熱療法などが主流だ。

 

キゾチックな宿 テルメ・マンツィ オテル&スパで ウェルネス滞在

温熱療法が体験できるウェルネス・スパとしてぜひご紹介したいのが、島の北部カーザミッチョラ・テルメにあるテルメ・マンツィ オテル&スパだ。ここではスパのみならず、ルレ・エ・シャトーに加盟している5つ星ならではの超一流のガストロノミーも堪能できる。イスキア島ならではの海の幸を生かしたミシュラン一つ星のレストラン モザイク。ここでは、驚くほどの洗練の技で芸術の域にまで昇華された郷土料理の数々を楽しめる。パンやドルチェまでもがとにかく美味なのだ。ちなみにイスキアはワインづくりでも知られている。

ミシュラン一つ星を獲得しているレストラン モザイクでは、シェフのエンツォ・ダヴィッド氏の創造性あふれる皿の数々に舌鼓を打つ。ミシュラン・シェフが一人ひとりのために作成するダイエットメニューと、温泉スパプログラムを合わせた究極のウェルネス滞在プログラムも、この宿ならではだ。

1863年創業のテルメ・マンツィオテル&スパは、今も昔もジェットセッターたちの集う宿だ。温泉水プール(写真左)やローマ風呂もあるスパ施設は1600m²の広さを誇る。

 

最強デトックス!“泥セラピー”

さて、泥セラピーについてご紹介しよう。使用される泥は、イスキア島の火山噴出物の養分を豊富に含んだものでアルカリ性の炭酸水素塩・硫酸塩泉とともに6か月間100度で熟成させる。これによって泥の中に微細藻類が培養されるのだ。泥は皮膚や体内器官に強い刺激を与えるため、45度に温められたものを関節部のみに15分間だけ塗布する。しばらく全身を温め、20分のハイドロマッサージと15分の循環マッサージでミネラル分の吸収をさらに高める。栄養分の吸収は午前中のほうがより効果が高いそうだ。

泥による温熱効果によって関節痛や炎症の軽減などが期待され、何よりも体内の循環機能や代謝・免疫機能が高まるため、体内に蓄積されたあらゆる毒素を排出する効果もあるという。まさに最強のデトックスなのだ。また、既存の問題を改善するだけでなく、予防効果もあるため、20代の若年層も気軽に受けられるという。ただし、泥の刺激が強いため高血圧や疾患を持つ人はセラピー前のドクターの問診結果によっては受けられないこともあるそうだ。

温泉療法学専門のドクターによると、6日間連続のセラピーを年に二回春と秋に定期的に受けるのが最も効果的だという。

ちなみに、源泉がホテルの真下から湧き出ているため、滞在中もそのエネルギーを感じているだけでパワーに満たされている感じがする。そのエネルギーを感じ、セラピーを受けるだけでも島を訪れる価値があるだろう。

左/施術前には必ず専門医による問診が行われる。
中・右/セラピーで使用される泥は、イスキア島の火山噴出物の養分を豊富に含んだもの。温泉水とともに6か月間100度で熟成させる。

シンプルで居心地の良い客室。

 

Information

テルメ・マンツィ オテル&スパ TERME MANZI HOTEL & SPA

Piazza Bagni 4, 80074 Casamicciola Terme, Isola d’Ischia(NA)

TEL. +39-081-994722

日本での予約:ルレ・エ・シャトー 予約センター

TEL. 0800-888-3326(月〜金 9:00〜17:00)

www.relais.com/manzi

 

イスキアの隠れ宿 コスタ・デル・カピターノ

カプリ島と並び、世界中から人々が訪れるイスキア島。特に温泉施設やクアハウスが充実していることから、中・北ヨーロッパからの長期滞在者も多いという。旅慣れたゲストたちのために用意された高級レジデンスの存在もまた魅力的だ。

数多くの映画のロケ地としても知られるサンタンジェロの近くに位置する「Costa del Capitano 〜コスタ・デル・カピターノ」。壮大な海を独り占めできるベストロケーションに加え、ミニマリスティックな内装が、目にする情景との一体感を与えてくれる。もちろん、キッチン完備だが、レストランで供される料理もまた、たまらなく美味だ。数々のレストランでアドヴァイザーを務めるシェフが腕を振るう料理は、絶景をさらに引き立たせてくれる。いや、眼前の静謐な絶景こそが、五感を高揚させてくれるのかもしれない。

 

Information

コスタ・デル・カピターノ Costa del Capitano

Via Provinciale Succhivo, 36,80070 Sant’Angelo, Serrara Fontana Isola d’Ischia(NA)
TEL. +39-081-909571
www. costadelcapitano. com/