日本の邸宅・建築家 ~美しい瞬間(とき)~

そこには上質な時が流れる場所がある

家造りをすること、それは自分の人生をデザインすることでもある。家は大切な人達とのかけがえのない時間を過ごし、最高の安らぎと満足感を得られる場所でなくてはならない。与えられた空間の特性を最大限に活かし、ある意味で我儘とも言えるほどの施主の理想を見事に形にして見せる、一流の建築家たちが作った邸宅を紹介したい

美術館のような家 BY EDWARD SUZUKI

エドワード鈴木

外界の雑然とした雰囲気を遮断するスクリーン。内部の構造は想像できない。

理想を形にするために必要なこと

まず施主は自分が「何を本当に求めているのか」を知っておいて欲しいです。「おまかせします」と言われて進んでいくうちに「こんなはずじゃなかった」となることもあります。なるべく細かく要望を決めてもらって、こちらはそれをダイジェストして提案します。途中で方針が変更になるのはお互いにマイナスですからね。一番大事なのは家族それぞれの要望を細かく聞いていただくこと。マクロからミクロになるべく要望は詳細に伝えていただきたいです。
この20年来の自分のデザインテーマとして、外と中の中間領域(インターフェース)の概念を重視しています。これがこの「美術館のような家」に関してもうまく作用しました。土地が商業地ということもあり、周囲の環境はやや雑然としているのですが、スクリーンによって外界の情報を遮り、外への窓を造らずに、広い中庭に向かって全ての部屋が構成されています。これにより開放的で明るい「家の中に外がある」家を造ることが出来ました。またどこにいても家族の気配を感じられることもこの家の大きな特徴です。

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中庭との間には大きな開口部が広がり回廊式になっている。

キッチンもナチュラル素材で同系色にまとめられている。

寝室ももちろん同系色で。開放的だが落ち着いた雰囲気。


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中庭のメインキャラクターとして存在感のあるアーティストの作品を設置。

オーナーのコレクションが飾られたリビング。明るくとても開放的だ。

中庭に向けて景色の見える明るいバスルーム。


EDWARD SUZUKI 建築家

EDWARD SUZUKI 建築家
ハーバード大学大学院アーバンデザイン建築学修士
自称「生命研究家」。原子・環境・哲学・形而上学の構造を真剣に考える人だと公言する。大胆でかつ有機的な設計は、東洋と西洋の影響を受けて描かれており、遠くはケニアや中国の様式をも具体化してきている。シカゴ・アテネウム・建築とデザインミュージアム 国際建築賞(美術館のような家)など内外の受賞歴は多数。


FLAT40 遮蔽と解放 BY KEISUKE KAWAGUCHI

河口佳介

南側の7階建てのマンション。まずここからの視線を遮断が必要だった。

遮蔽と解放を同時に実現する浮壁を持った空間

こんな暮らしがしたい、というイメージさえあれば理想の住宅を作ることは可能です。施主との夢が共有出来たなら、その土地を訪れて、環境や風土、土地の特性をまず調べます。また建築は施主の手により成熟していく器量が必要。そこに暮らす人が、生活デザインを描ける「潔さ」を持った空間こそが建築の持続性を高めていけると考えます。さらに自然の力を最大限に享受できる建築は非常に合理的です。その土地の自然環境を十分に理解することで、その建築の快適性と機能性を高めることが出来ると考えます。
この建物の敷地は西に向かって細長く、南側には7階建てのマンションがそびえたつ環境。採光と通風を確保しつつプライバシーを守る、という矛盾に満ちた課題をクリアするために「浮壁」を作るという選択をしました。40mのコンクリート製の壁自体を地面から浮かせ、室内から1.5mほど距離を持たせています。美観のために全面を白一色にし、日中から夕刻へと変わる空の色をとらえるスクリーンとしての効果を持たせました。この浮壁によりマンションのどの部屋からも室内の視線を遮ることができ、逆に室内からは敷地内へ入る人への足元も確認できる。壁の下からは風の通り道も確保されています。室内のどの位置からも中庭の緑と空を仰ぎ見て、時間の流れも感じられる。目を閉じても感じられるこの心地よさは何ものにも勝る豊かさと言えるでしょう。

河口佳介河口佳介河口佳介

地域のランドマークにもなりそうなスクリーンのような美しい長い白壁。

各居室には大型多目的の収納を多数確保。すっきりとした生活を可能に。

中庭に面した室内にはどこも十分な光が入り込む。


河口佳介河口佳介河口佳介

中庭にはプールを設置。使用しない季節にも水盤として目に美しい。

スキップフロアにして南北を二分割した室内。リビングから中庭への眺め。

 


河口佳介

河口佳介 建築家
福山大学工学部建築学科卒業
広島を中心に活動し、住宅店舗、別荘、クリニック、福祉施設など幅広く展開している。JIA 主催「現代日本の建築家優秀建築選(2006年~2009年)」、日本デザイン振興会主催「グッドデザイン賞(2013年)」一般社団法人日本建築士事務所協会連合会主催日事連建築賞奨励賞「FLAT40」(2014年)等、数多くの受賞歴を持つ気鋭の建築家。彼のデザインする建築物は、その圧倒的な存在感と柔軟なデザイン性において各方面から高い評価を受けている。
Keisuke Kawaguchi+K2-DESIGN http://www.k2d.co.jp/
TEL 084-973-5331


軽井沢の自然と一体化した邸宅 ~フーガの家~

横山 正

贅沢に広がる庭、車寄せと屋内の車庫。軽井沢で求められる要素が全て揃っている。

半戸外のエリアが豊かな別荘での時間を演出する

旧軽井沢の森の奥にある、900坪を越える広大なその土地は、チェコスロバキアの公使館跡地。前オーナーは昭和史に残る映画女優という由緒ある場所だ。軽井沢を描き続けた作家、堀辰夫の「美しい村」では、この脇の小径で、公使館から流れてきたバッハの「遁走曲(フーガ)」が流れてきた、という主人公の重要な心象風景として描かれている。そこから名づけられた「フーガの家」は、軽井沢の代表的な伝統様式の建築物と言えるだろう。「まず普段、この地に置いておく車のための車庫、そして東京を行き来するための車のための車庫、雨に濡れずに別荘の出入りが出来るような車寄せが必要でした。そして主寝室以外にゲストルームは二つ、というのが最初の条件。庭に面してプレイルーム、リビング、ダイニングを作り、ポルティコ(柱の連続)があり、半戸外の空間があるのが建物の特徴です。半戸外のテラスは軽井沢の別荘の伝統的な様式で、軽い食事やお茶などを楽しむための快適なスペースです。降雪時にも有効で建物との間の貴重な空間を作ってくれます。施主の希望はモダンにはしないということ。山小屋風にするのもNG。ヨーロッパの香りのする格調の高さが求められました。ニューイングランド地方に起源をもつ、シェーカー教徒の使う家具のようなシンプルさを再現するため、特殊な塗装の仕上げや、浮造り加工などを施しました。木の素材感を大事にした、非常に格調の高い別荘と言えるでしょう。」

横山 正横山 正横山 正

エントランスには二ヶ所のガレージ。三台を室内に収容できる。

天気の良い日はオープンテラスでの食事が気持ち良い。

半戸外の空間を作るポルティコ(屋外の列柱)の存在が軽井沢の伝統的なスタイル。


横山 正横山 正横山 正

シンプルなモノトーンの色調とナチュラル素材を使用した落ち着いた空間で戸外を臨む。

ガレージからつながっているシックな色調でまとめたリビング。

外断熱、熱交換式の24時間換気を行い、床暖房と薪ストーブで快適な室温が保たれる。


横山 正 建築家

横山 正 建築家
武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業、2002年~内井昭蔵建築事務所所長、2005年~アトリエワイズ主宰、2006年~東京理科大学工学部建築学科非
常勤講師、東京YMCA 野辺山高原センター、世田谷美術館、蕗谷虹児記念館、高岡市美術館など数々の作品を手掛ける。

アトリエワイズ
東京都渋谷区恵比寿西2-1-7-602
mail:t-yokoyama.49@nifty.com


スクエアな敷地に広がるモダンデザイン BY NOBUHIRO KOGA

古賀信寛

広々としたリビング・ダイニング。先に続くテラスと一体感のある造りになっている。

ブランドイメージを意識したラグジュアリー感のある家

「この物件は、お子さんも独立した50代の夫婦が平日ゆったりとした時間を過ごし、週末にはお孫さんを連れてきたお子さんご夫婦が訪れ賑わいをみせる。そんなライフスタイルを持つご夫婦二人のため、終の住処として建てられたお宅です。特にインテリアデザインについては奥様のご希望を十分に反映させています。奥様はエルメスが大変お好きだそうで、ケリーやバーキンなどのバッグを数多く収集されています。全体にそんなラグジュアリーブランドのイメージを思わせるような色調や高級感を演出しました。ミノッティのソファ、カッシーナのダイニングテーブルなど、家具は落ち着いた色調のイタリアンモダンで揃え、間接照明を多用してグラデーションのある微妙な色合いを表現しています。ゆったりとした広さと抜け感を表現するためにリビング・ダイニング・テラスを並べて一つの空間とし、あえてキッチンは独立させています。施主のご希望を確実に反映させながら、必ず空間の中にサプライズを取り入れてメリハリを付け、人の五感を刺激するような家造りを行っています。」

古賀信寛古賀信寛古賀信寛

大型RV 二台を収納する広々とした車庫。

トップライトから陽光の差す明るいアプローチが車庫のある一階から続く。

正方形の敷地に合わせてスクエアに空間を切り分けたモダンなデザインの外観。


古賀信寛古賀信寛古賀信寛

駐車場の横から階段を上がると広々としたテラスに迎えられる。

落ち着いたブラウンを基調として様々な素材をグラデーションで表現したインテリ
ア。

間接照明を使用し、高級ブランドをイメージした色調の主寝室。


古賀信寛
2002年 プロスタイルデザイン株式会社設立 2003年PSD 自由が丘GALLERY を開設。
2005年 PSD インターナショナル事業部を新設、ライフスタイルプロデュース事業を開始。
2009年PSD AOYAMA ショールーム『PROSTYLE DESIGN BOX』をオープン。
2011年より「スタイルハウジングEXPO2010」にPSD プレゼンテーションブース出展。
住宅・ビル・商業施設など幅広い建築総合プロデュースとライフスタイルプロデュース事業に関わり「人に優しい建築」を提唱し続けている。


く形の切妻 BY HIROYUKI NIWA

丹羽浩之

道路側には4台収納できる大型の車庫。来客時にも十分なスペースが備わっている。

シンプルな切妻屋根の和モダン住宅

「家の設計を任せるということは、自分の生活を設計士にさらけ出すということです。まずは24時間の家族の暮らしぶりを細かくアンケートでいただきます。それこそ家族がどのタイミングでタオルを交換するのかというところまでお伺いします。それによって例えば脱衣場と洗濯機の設置位置まで変わってきますから。施主の心を開かせ、夢と現実をうまく引き合わせていかないと良い住宅にはならないと思います。この物件はトラックなど重車両の通行のある道路に面していたため、コンクリートの壁と広い駐車場を道路側に配し、穏やかな住空間のためのバリアとして作用させました。また住居部の木造平屋建の建物をく形に折り曲げることで、パターゴルフも出来るような広い中庭空間を確保しました。インテリアは和風になり過ぎないように、照明や明るめの色調でモダンテイストを保たせながら、木、石、左官塗りの壁など、全体に経年変化を楽しめるような自然素材を多く使いましたので、家族の成長とともに味わいが深くなるような住まいが出来たと思います。」

丹羽浩之丹羽浩之

家具や格子にモダンテイストを盛り込み、和洋をうまく折衷させているインテリア。

広々とした中庭に面した居住スペースは陽光が差し込み、解放感も抜群。


丹羽浩之丹羽浩之丹羽浩之

広々とした明るい玄関スペース。

シンプル・モダンなイメージのダイニング・キッチン。

玄関へと続くアプローチには間接照明が埋め込まれる。


丹羽浩之
武蔵野美術大学建築学科卒。ランドスケープ事務所・建築設計事務所を経てヴォイド設立。ザ・リッツ・カールトン東京45F ダイニング、TRIBECA、なんばパークス、ANA クラウンプラザホテルグランコート名古屋など商業施設、オフィス、戸建住宅まで幅広く扱う。
2003 ~ 2004 年度 グッドデザイン賞中小企業庁長官特別賞(プロダクトデザイン)、第38回SDA賞サインデザイン奨励賞、IIDA2004・2005・2008
Award 優秀賞、社団法人照明学会東海支部平成19年優秀照明施設東海支部長賞、第18回 BEST STORE OF THE YEAR優秀賞、第29回 三重建築賞一般部門入選、2015静岡県住まいの文化賞優秀賞(く形の切妻)
有限会社VOID http://void-jp.org TEL 052-784-6570


海への視界が開けた家 BY KOICHI ODAKA(アーネストアーキテクツ株式会社)

丹羽浩之

白い壁が光を受けて、まるで青空に浮かぶ豪華客船のような印象を受ける。

絶景の視界、光と自然の中を浮遊するドラマティックな空間

「オーナーがどういう思いで家を建てたいのか、それを理解していく方法は様々です。家を建てようという方は、それぞれに憧れのイメージを持っていると思いますが、その要望に様々な付加価値を付けていくのが私たちの仕事ですね。要望を理解した上で、常に提案型でいたいと思っています。海を見下ろす高台にあるこの土地は、三浦半島から伊豆まで270度見渡せる絶景の場所にあり、この海を見渡す視界を優先して設計を行いました。オーナーは非常に向上心が強く、とにかく最高のものを作りたいという気持ちの強い方でした。そして海への視界をまず活かしながら、都会的なセンスを採りいれたいというご希望があり、ゲストを招いて楽しむための様々な要素、プールやオーディオルームなど、もてなしのための工夫がなされています。清々しい白亜のゲートは建物沿いにドラマティックにラウンドして、地階の駐車場へと続き、白い外観は光を受けて、青い空に浮かんでいるような印象を受けます。三層吹き抜けのエントランスには明るい陽光が存分に注ぎ込まれ、リビング・ダイニングからは遮るもののない、絶景の大海原が目の前に広がります。素晴らしい建築物には一貫したテーマ性が必要だと思います。この家は自然光の差し方に配慮しながら、建物を少しせり出したことで叶えた、海・山・光の壁につつまれる感覚が内外一体の浮遊感を生み出します。自然と一体になれる感覚を大切にした、最高のリゾートハウスになりました。」

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建物が少しせり出す位置にあるため270度の絶景が素晴らしいリビング。

視線を海にいざなうために設けた壁は、レフ板のように光を集め反射する。

屋上からの丸い天窓から存分に陽光が降り注ぐ明るいプール。


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外界との視界を遮ることで、落ち着いた雰囲気を持つ囲炉裏のある和室空間も用意。

窓外に水盤を配することで周辺の景色を遮り、絶景だけが目に入るデザイン。

シックなインテリアの地階のプレイルームからは愛車を愛でることも出来る。


尾高光一 アーネストアーキテクツ

アーネストアーキテクツ株式会社 TEL 03-3769-3333 http://earnest-arch.jp/


アンティーク家具が似合う住宅 BY TOMOYA ITABASHI

板橋友也

クラシカルな色合いのソファに合わせたクロスをセレクトしたセカンドリビング。

内外に散りばめられたクラシカルな装い異なる世界観を調和させた二世帯住宅

「オーナーへのアプローチは、普段の生活に入り込み、深いところまで理解していく作業が必要です。まずは、ご家族との日常的な会話や生活パターンを聞き出すことから始めますね。最初の段階で、どういう空間を作りたいのかをお聞きしますが、どうしてそういう発想になったのかという過程も重要です。たとえば、途中で内容が180度変わってしまったというケースもあります。最初の段階ではモダンな建物のご希望を口にしていたとしても、話をしていくうちに、本当はモダンなものはあまり好きではなく、クラシカルでエレガントな建物を求められていたということがわかる場合もあります。ですから、本人になり代わって、心の底から欲しているものを引き出してあげることが大切です。
今回のケースではオーナーのコンセプトがしっかりしていましたので、それを理想的に調和させる作業が必要でした。親世代、子世代それぞれの世界観を尊重するために、クラシカルやエレガントな要素を強調するデコラティブなモールディングなどもあまりやりすぎないように配慮しました。オーナーがアンティーク家具の収集家でしたので、以前からお持ちの調度品などを配置した際に、それを活かすような天井からの光の取り入れや、クロスのセレクトなども重要でした。外観ではクラシカルな建物に必要とされるシンメトリー性を使った窓の位置やスリットを配し、調和のとれた美しい建物が完成しました。」

板橋友也板橋友也板橋友也

シンプルでクラシカルな装飾が施された外観。夜はライトアップされた門扉が美しい。

調度品を活かすために天井から柔らかな陽光が降り注ぐエントランス。

遊び心を採りいれた子世帯のレストルームは赤と金の配色でインパクト大。


板橋友也板橋友也板橋友也

白で統一されたキッチンには様々な装飾やモザイクタイルがアクセントになっている。

日当たりが抜群の親世帯のリビングは愛犬のお気に入りの場所でもある。奥はダイニングへと続く。

ゆったりとした親世帯の寝室。朝は太陽の光に包まれる。