マリーナベイでの恋

待ち合わせの場所へ

LEVEL 33-- 。シンガポールのベイエリアが一望できるレストラン&バーだ。テラス席からは、シンボルとしてすっかり定着したマリーナベイ サンズが真横に見える。
最高の景色と絶品の料理、そして何よりも、入り口に鎮座する巨大ビール醸成タンクから注がれる何種類ものビールが、たまならい。数年前にオープンしてからずっと人気のようだ。
知人の紹介で出会った国内系航空会社に勤める彼女とは、微妙な関係が2年も続いている。
「シンガポール路線に担当が変更になったの」という彼女からの連絡があったのが1カ月前。「じゃあ、次の出張の時は、一緒にご飯でも食べようか」と返信した。
「ここで、待ち合わせましょう」と言ったのは彼女だった。
待ち合わせ場所に向かう前、ボクはホテルから目の前に広がるマリーナベイを周回するコースをランニングすることにした。最近はランニングにはまっていて、毎日のように走っている。今日は45分間走って、汗をかいた。ランニングの間は全く何も考えない"無の状態"なのだが、走り終えると講演のアイデアがどっと浮かんでくる。

日本の不動産市況の行方

明日の講演では、シンガポールの投資家向けに日本の不動産市況について話すことになっている。
リーマンショックから5年が経とうとしている。その後のアメリカの不動産市況は数年間の低迷期があったが、現在では既にリーマンショック前を超える水準になろうとしている。
アメリカの実物不動産の取引の状況がわかるS&Pケースシラー指数(主要20都市)の推移をたどると、2012年ごろから前年比プラスに転じ、プラス幅は縮小しているものの2014年に入っても、依然プラス成長をしている。
一方、日本はどうだろうか。不動産証券であるJREITの指数は、アメリカの実物不動産と同じように、2012年秋ごろから戻ってきて、リーマンショック前までではないが低迷期は過ぎ、大きく戻している。一方、実物不動産の方は、やっと今年分の公示地価は、3大都市の地価がプラスに転じているものの、地方都市の低迷は続いている。
日米の回復には格差があることは事実だ。これをどう捉えるか? 日本には成長の伸びしろがあると捉えるか、それとも大きな成長は見込めないと捉えるか、投資家はどう判断するだろう?

LEVEL33

マリーナベイフィナンシャルビルのエントランスから、専用エレベータに乗り33のボタンを押す。
LEVEL 33の名前の通り、お店は33階にある。エントランスには大きなビール醸成タンクが3つあり、それらが僕を迎えてくれる。
接客を担当している方に名前を告げると、「すでに、お越しになられていますよ」といい、席に案内された。 「お久しぶり。3カ月ぶりくらい?元気でしたか?」と笑顔で話した。 ボク達はここのウリであるオリジナルビールを注文して、空に向けてグラスを重ねた。
かつては、国内路線が中心だったので、彼女のステイとボクの出張の都合を上手く合わせて、各地で美味しいモノを食べておいしいお酒を一緒に飲んだ。ホテルの部屋で飲むことはあっても泊まっていくことはなく、最後の一線を超えることはない関係だった。
「ウチの会社も国際線シフトが鮮明よ。同期も多くが新しく開設されたり増便されたアジア路線の担当に振り分けられたの」。
「国内需要は増えそうもないし、羽田国際線枠も拡大されたしね。時代の流れだよね」。
彼女は、育ちのよさそうな、おっとりとした話し方だ。そのリズム感からなのか、ボクがいつも慌ただしい毎日を過ごしているからか、彼女との会話は、心地いい。特に今夜は話が弾んだ。
いつものように2件目のお店を経て、彼女はボクのホテルに来た。サンズの真正面にある、スイソスタンフォードホテルの43階のダブルルーム。 「今日は、なんだか気分がいいわ」と、彼女は眼下に広がる景色を見ながらいった。
「ボクも、気分がいいよ。明日の準備は、しっかりとできているから、今夜は夜更かしして飲もうよ」。
彼女はにっこりとうなずいた。
時間が流れる。ワインのボトルが2本空いたころ、ボクは言った。
「今夜は泊っていけば?」
彼女は微笑みながら、「もう1本、ワインを飲みながら考えるわ」と言いながら、着ていたジャケットを脱いだ。

シンガポールの夜景は綺麗だ。

吉崎誠二

吉崎誠二 Seiji Yoshizaki

ディー・サイン不動産研究所 所長

(株)ディー・サイン 取締役
早稲田大学大学院ファイナンス研究科、立教大学博士前期課程修了。
船井総合研究所Real Estateビジネスチーム責任者を経て現職。

著書:『大激変 2020年の住宅・不動産市場』
『消費マンションを買う人、資産マンションを買える人』など9冊。
連載:「ダイヤモンド(WEB版)」など月6本。
不動産・住宅関連分野が専門領域。