ホテルのジムと黒髪のトレーナーと

都心のとあるホテルの35F

夜、エレベーターを降りると、そこには摩天楼の世界が広がっている。
出張で東京にいないとき以外、確実に週3回はこのホテルにきている。「近くに住んでいて、セレブでもないのにどんな用事だ?」と、高校時代からの親友に聞かれた。そんなに大した理由ではない、このホテルのスポーツジムの会員なのだ。
今年の夏が終わるくらいからマシントレーニングにはまっている。また同じ頃からプロのパーソナルトレーナーについてもらい、加圧トレーニングも行っている。
効果はどうだ?
こちらを眺めながら、「確かにお腹は凹んだな」と笑った。「でもどうして、そんなに毎日のように通うんだ?
忙しいオマエが」と親友が右の眉を上げて言う。こいつにウソはつけない。17歳からのボクのことをだいたい知っているのだ。もちろん、こちらも同じだけど。

あの笑顔との出会いは、インパクトがあった。ジムスタッフの黒髪の女性。大きな黒い瞳がキラキラして、笑顔を絶やさない。長い髪をひとつに束ね、テレビのCMに出られるくらいの艶やかな髪だ。「CMクリエイターだったら、彼女を起用するな」とひとり妄想してみる。
2日に1度くらいの割合でジムに行き、少しずつ話すようになると、お互いに名前で呼ぶようになり、どんな素性かも知る仲になった。翌日に講演を控えた日は、ジムで汗を流した後そのままホテルに滞在し、翌日の講演内容を確認・シミュレーションすることにしており、今夜もここに宿泊する予定だ。トレーナーの指示を仰ぎながら自分の身体、肉体=筋肉を追い込むことになるのだが、最後は気持ちを追い込むことになる。この日のトレーナーは、とくにMっぷりがすごかった。
疲れ果て呆然としていると、CM美女が声をかけてきた。「だいぶキツそうでしたね」
彼女の笑顔をみると、運動後にプロテインやアミノ酸を吸収するかの如く体力が蘇ってくる。ボクは今日こそ彼女を誘ってみようと思い、最後の気力を振り絞った。「今夜このホテルで夕食をとる予定だから、よかったら一緒にどう?」

2014年4月からUPされる消費税

明日の講演テーマは、「住宅・不動産における消費税増税の影響」というもの。新政権は本当に導入するのか?
夏の参議院選挙でも争点になりそうだし、2013年には何度も議論されるテーマだと思われる。
消費税の増税はすでに法案成立し、1997年から続いた現行5%から2014年4月には8%。その約1年半後2015年10月には10%になる方針が決まっている。
1997年から15年以上が経過し、「消費税=5%」という環境下に慣れた感もある国民にとって、今回の増税は段階的とはいえ、現状の2倍にも及ぶ10%の負担増の感覚が強いだろう。

前回の増税は97年で、3%から5%だった。その際、住宅・不動産分野では、かなりの駆け込み需要が見られた。しかし、この97年の時は、不動産市況がかなりの下げトレンドだったため、結果的に消費税が上がった後に購入した人は、不動産そのものの値下がりのため、結果的に増税分を吸収することになった。誤解を恐れずにいうと、デベロッパーが宣伝文句に使った「消費税UPの前に買うのがお得」は、(一部の物件では)ある意味、「ただ煽っただけ」ということになった。もちろん結果的にそうなったということで、デベロッパーが悪いというわけではない。

さて、今回は?

2012年の後半は若干の下げトレンドで推移した。この傾向は年度が替わる頃には横ばい、もしくは若干の上昇に転じると予測する。とすると、97年の下げトレンドど真ん中での消費税UPということにはならず、消費税増税は購入者に少なからず影響を与えるだろう。そう考えると不動産購入を考えている人は、消費税UP前に購入したほうがいいかもしれない。具体的には、引渡しを2014年の3月までに受ける、あるいは引渡しまでの期間が長くなることが予測されるならば、契約を2013年10月までに済ませれば5%が適用される。

明日の講演も多くの人が集まってくれるようだ

夜景の見える人気のレストランは満席のようだったが、お願いしてなんとか1席をつくってもらった。
5分遅れでやってきた彼女は、ジムでのイメージとはだいぶん違っていた。そうか、髪を束ねていないんだ。爽やかなイメージからエレガントなイメージへと変貌する彼女を目の前にして、胸がざわついた。
きれいな女性との話がはずむ時間は、あっという間に過ぎる。時間にこんな不平等があっていいのだろうか?
と天を見上げる。「おいおい、最近長い髪の女性の登場が多くないか?
オマエの好みはショートヘアだろ」という声がどこからともなく聞こえてくる。結局、その女性に似合っていればそれでいいのだ。

で、その彼女とはどうなったのか?それは、ちょっとここでは書きにくい。

吉崎誠二

吉崎誠二 Seiji Yoshizaki

ディー・サイン不動産研究所 所長

(株)ディー・サイン 取締役
早稲田大学大学院ファイナンス研究科、立教大学博士前期課程修了。
船井総合研究所Real Estateビジネスチーム責任者を経て現職。

著書:『大激変 2020年の住宅・不動産市場』
『消費マンションを買う人、資産マンションを買える人』など9冊。
連載:「ダイヤモンド(WEB版)」など月6本。
不動産・住宅関連分野が専門領域。